第16話
千優と銀花はダンジョンの13層に到達し、これまで以上に強力なモンスターたちに立ち向かっていた。激しい戦闘の中でも、二人は着実に成長しているのを感じていた。銀花の剣技はますます鋭くなり、千優のスキルも精度と効果が上がっていた。
「千優、今日はいつも以上に調子が良さそうだね」と、銀花は微笑んで言った。
「銀花のおかげだよ。君の動きに合わせることで、僕もどんどん上達してる気がするんだ」と、千優も笑顔で応えた。
13層を進んでいくと、二人は凶暴なアンデッドの群れやキメラなど、これまで以上に手強い敵と対峙することになった。しかし、銀花と千優は息の合った連携で次々と敵を撃破していった。
「これで終わりかな…?」千優は息を切らしながら周囲を見回した。
「うん、でも油断しないで。13層はまだ何があるかわからないから」と、銀花は緊張感を持ちながら答えた。
ダンジョンの13層をほぼクリアし、出口が見えてきた頃、銀花が何かを思い出したように言った。
「そうだ、千優! 明日は休みだよね?」
千優は少し驚いて、「ええ、そうだけど…?」と返した。
銀花はにっこりと笑い、「近くで祭りがやってるみたいなんだ。デートしよっ!」と提案した。
「デ、デート?」千優は一瞬戸惑ったが、すぐに頷いて答えた。「うん、いいよ。楽しみだね」
しかし、千優の心の奥に不安がよぎった。表情は一瞬曇り、彼の胸の内で複雑な感情が渦巻いた。最近感じている自分の変化。それがどこへ向かうのか分からない不安が、彼の心に重くのしかかっていた。銀花にはこの気持ちを隠してはいけない。そう思うと、千優は静かに決意を固めた。「明日、話さなきゃ…」と、自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。
翌日、約束の時間に千優は祭りの会場に向かい、銀花と待ち合わせをした。彼は少し緊張しながら、浴衣姿で待っていた。
「千優!」元気な声と共に、銀花が現れた。彼女も浴衣を着ており、いつもとは違う雰囲気で彼の前に立っていた。
千優は彼女を一目見て、思わず言葉を失ったが、すぐに微笑んで言った。「銀花、すごく綺麗だね。浴衣姿、すごく似合ってるよ」
銀花は少し頬を染めながら、嬉しそうに返した。「ありがとう、千優。君もとても素敵だよ。いつもより大人っぽく見えるね」
千優は照れくさそうに笑い、「そうかな…?ありがとう。でも、やっぱり銀花の浴衣姿には敵わないよ」と言い、少しだけ顔を赤らめた。
銀花はその反応を見て、微笑みながら「そんなことないよ。今日はお互いに特別な夜にしようね」と優しく言った。
二人はお互いに浴衣を褒め合いながら、祭りの会場を回り始めた。提灯の光が柔らかく二人を包み、屋台から漂う甘い香りが心をくすぐる。二人はお面や綿菓子、金魚すくいなど、次々と祭りを楽しんだ。
「これ、すごく美味しいね!」銀花は屋台で買った焼きそばを頬張りながら、笑顔を浮かべた。
「うん、夏祭りの屋台ってやっぱり特別だよね。」千優も同じように笑顔を返した。
やがて、祭りの近場にある神社にたどり着いた二人は、境内の人影の少ない静かな場所で立ち止まった。千優はそこで、銀花に向かって真剣な表情を見せた。
「銀花…実は、君に話したいことがあるんだ」
銀花はその言葉に少し驚いたが、千優の表情を見て、彼が何か重大な話をしようとしていることを察した。「何かあったの?」と優しく問いかけた。
千優は深呼吸をして、心の中で決意を固めた。「最近、僕の中で何かが変わり始めているんだ。言葉遣いとか、気持ちの浮き沈みとか…最近、妹にも指摘されて、すごく不安になってる」
銀花は黙って千優の言葉を聞いていた。その瞳には、彼を気遣う気持ちと、どんな言葉をかければいいのかを考えている様子が伺えた。
「僕は、この変化が自分自身にとってどんな影響を与えるのか、まだ分からない。でも、銀花には隠し事はしたくない。だから、今こうして話してるんだ」千優は静かに続けた。
銀花は一瞬の間を置いてから、優しく千優の手を握りしめた。「君の中にある彼女の魂の残滓が徐々に影響を与えてるんだろう。トリガーは恐らく強い竜魂と関わったことで魂の残滓が活性化してるのかも。最近、自分だけに女性の声が聞こえるとかない?」
「ある…かも、自分が言った言葉が女性の声と重なったり、夢でも時々知らない記憶をみたりする」
「夢で記憶を?」
「うん、例えばこの前みたのだと確か、アレ…ン?みたいな名前の村長の息子に外に出るなとか、意地悪を言われてるのとかかな」
「アレンか…名前は一緒でもあの人と大違いだね」
「でも、なんかちょっと似て『ヒュルヒュル、ヒュー、ドーン!!』」
花火が上がった
「わあ、綺麗」
「うん、そうだね」
「ねえ、千優」
花火に照らされた顔を見合わせる二人
「どんな、千優でも好きだ、過去も今もどんな未来でも、君を愛してる」
「えっ?」
「だから、『ヒュルヒュル、ヒュー、ドーン!!』私が変わってしまっても嫌いにならないで欲しいな」
「ごめん、最後花火で聞こえなかった。私がなんだって?」
「いや、千優が不安がってるから早く竜魂を集めないとなーって」
「竜魂集めたら戻る?」
「うん、戻すよ。銀竜の魔法はあの呪いを治すこと以外は何でもできたんだ。例えば死者の蘇生だってね」
「わかった、強くなる理由もう一個できちゃったね」
「ああ、強くなろう。一緒に…あっ、でも休みや息抜きも大事だよ。」
「あはは、わかってるよ」
「うんうん、1日だけじゃなくてもうちょっと長い休みとかも取って、旅行とかも一緒に行きたいな」
「そうだね、行きたいね」
二人は手をつなぎながら、愛を確かめあった。
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