男なのに竜の「巫女」ってなんですか?

シンナ

第1章「運命の再会」

前日譚

それは、あまりにも美しく、そして悲しい一匹の竜と一人の少女の物語の結末。

薄暗い洞窟の奥、月明かりに照らされて白銀に輝く竜。その傍らには、長い黒髪を持ち、儚げな美しさを纏った少女が、優しく竜に寄り添っていた。竜は深く響く低い声で、静かに口を開く。


「離れなさい。この呪いが君の命も奪ってしまう。」


竜の体には、痛々しい黒い模様が広がっていた。その姿を見つめ、少女は鈴の音のように清らかな声で応じる。


「あなたが逝く時、私も共に。」


竜は戸惑いの色を隠せず、言葉を紡ぐ。


「それは、私が君に言ったことだ。」

「その言葉が、ボクを救ったのです。だから、今度はボクがあなたを救わせてください。」

「本当に…困った巫女だな。」


少女は涙を堪えるように、微笑みながら頬を膨らませた。


「お願いです、名前で呼んでください。」

「なぜ、巫女が名前で呼ばれたいのか、私にはまだ分からぬ。」

「それでも…名前で呼んでください。」


竜は少し驚きながらも、その願いに応えた。


「…チー。」

「はい、なんですか?」

「もし、来世で出会えた時…私に名前があるなら、それを呼んでくれるか?」

「何度でも、あなたの名を呼びます。」

「チー。」

「はい、なんですか?」

「来世でも…一緒にいてくれるか?」

「今も来世も、永遠に共に生き、共に死にましょう。」


その瞬間、二人の間に永遠にも思える沈黙が流れる。


「銀竜様。」

「どうした?」

「幸せでしたか?」

「チーと過ごした時間は…どんな宝石よりも輝いて、ボクの心を満たしてくれた。」

「銀竜様…」

「どうした?」

「…おやすみなさい。」

「おやすみ、チー。」


静寂の中で、二人は穏やかに目を閉じた。冷たくも優しい眠りが彼らを包み込みこんだ。

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