デッドエンド ライブラリー
大塚 慶
第1話 覚醒
「ほわっ!」と思わず変な声が出た。
思いっきり目を剥いて目の前にいる男を見てしまった。やけに顔が大きく禿頭で脂が浮いている傷だらけの顔を見て、見なければよかったと思った。太い二の腕をテーブルについて、男はいぶかし気な目でこちらを見返した。
「ジーノ。おいおい、ジーノ。なんだ突然変な声を出して」と禿頭の男、ヤコポが言った。ガタイに似合わず可愛い名前だ。
「あまりのことに頭がおかしくなっちまったんじゃねぇか」と隣の男。確かミゲルかなんかという名前の男が軽口を叩く。
俺誰だっけ? 俺は佐藤
ものすごい違和感にジワリと汗が出てきた。目の前には可愛い彼女のしおりがいるわけでもなく、体のデカい、贔屓目に見ても堅気には見えない禿げ外人が腕まくりしているのが見える。
今まで居酒屋のメニューを見ながらいちゃいちゃと「ん-、しおり、辛いのだめだから。豚キムチ頼んじゃおうかなぁ」とか言って「それくらい大丈夫だもーん」みたいなことを言われていたのに、俺の前には傷だらけの、とても現代日本基準では製品とは呼べないような汚いテーブルがあり、その上の木のコップに水が入っているのが見えた。
水を覗き込むと、金髪のよく言えば美形な。悪く言えば頼りなさそうな顔が映っている。ジーノ・ロッセリーニだ。僕だ。わかる。
ジーノとしての人生もしっかりと覚えている。つまり今自分は借金の返済を求められていることもしっかりと覚えている。うっかりと花街のアンリにつぎ込んだのだった。
その記憶と、佐藤素一としての人生が一気に頭に湧き上がる。小学校入学から、部活に明け暮れた中学高校時代。苦労した大学受験を通して、漸くできた彼女に浮かれた大学最終学年。
『異世界転生? タイムスリップ?』
そんな言葉が頭を寄ぎり、一気に気分が悪くなり。胃のからこみ上げ来るものが、口から思わず溢れた。溢れて出てしまった。そしてそのまま目の前が暗転。僕は、俺は気を失ってしまった。
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