誰かのための物語
第88話 生きる為
千堂が反射した破壊の光線に飲み込まれるクリプット。少ししてから千堂は自分のパーティメンバー達を自分の手が届く一箇所に集める。
クリプットとの攻防の前と同じ様にパーティメンバー達が倒れている姿があった。だが、そんなパーティメンバー達には魔法の被弾などさせる事なく護り切れた様だ。
それはセリナ達も同様でしっかりと護れた様だ。そんなセリナはさっきよりも強く光り輝いていた。
そんなセリナ達を担いで避難させる。
「────ただ、まだセリナ嬢ちゃんは起きそうに、ないか。まっ、それはしゃあないか。護れただけでも御の字だよなぁ」
千堂はそう呟くと自分の状況を再度確認する。
今の千堂の状況は傷は負っているが手足は身体は動く。ただ、「スキル」を発動する為の魔力がさっきのクリプットとの攻防でほとんどを消費してしまっていた。
そんな千堂があとできるとしたら初め、セリナ達を護った時の様な盾を数回出せるのがやっとだろう。
それに────
(────これで奴が死んだとは限らない。もう、この戦いも終わって欲しいところだが、奴の"不死身"という特性を考えるとなぁ。さて、どうしたものか?)
千堂はそんなことを考えると一人、うんうんと唸りながら考える。
ただ、そんな中でも良い事はあった。さっきの攻防でクリプットにかなりの深傷を負わせたはずであり、さっきのクリプットが放った強力な魔法から考えると相当の魔力を使ったはず、だと。
そんなことを千堂が考えていると漸く破壊の光線が収まったのか振動と熱風は無くなり、クリプットを飲み込んでいた光線も無くなっていた。光線から発生した湯気のせいかクリプットがどうなったかはわからなかったが警戒を怠らない千堂。
だが────
「────チッ!まだ、それでも倒せないのかよ………「ダンジョン」の物質すら溶解させる攻撃でも倒せないとすると────どうすりゃ良いんだよ………」
湯気が消えた先にいるクリプットの姿を見た千堂は吐き捨てる様に愚痴を付く。
クリプットの姿は破壊の光線を直撃したせいか首から下が欠損して酷い有様だったが、それでも息をして千堂を睨んでいる。よく見ると既にクリプットの欠損した身体は徐々に回復していっていた。姿が変わってからは再生能力も向上しているらしい。
ただ、動けそうにないクリプットだが、今の千堂が何をしても意味が無いことを知ってか、舌打ちをするとクリプットの傷が治った後のことを考えていた。
(────はぁ、どっち道護り切る事には変わりはねぇ。ただ、俺の魔力がどれほど保ってくれるか、だな。後は────)
千堂は今もまだ倒れ伏すセリナを見る。
(────セリナ嬢ちゃん次第なのか。あぁ、一応"保険"はあるが。それが間に合うか………天に任せるしかない、か。彼でも倒せるかわからないしな)
そう、言いながら頭をボリボリと掻く千堂。
「────やって、くれたな、人間」
千堂が頭を掻きながらもどうしたものかと考えていると背後から今、一番聴きたくない相手の声が聞こえてくる。
背後を見たくはなかった千堂だが、そんな事も言ってられない。
なので背後を見ると────
首から下の部位の欠損は治っているが未だに身体中から血を流すクリプットの姿があった。
「────はぁ、お前さん。少しタフすぎやしねぇか?それにまだ治っていないだろ。もうちっと休憩してろや」
「抜かせ。貴様らを殺した後に十分な休憩は取らせて貰おう」
千堂の話などまったく聞いてくれず、完全に千堂達人間を抹殺する事しか考えていない様だ。そんなクリプットの態度に流石の千堂も「うげぇ」ととても嫌そうな表情を浮かべていた。
ただ、嫌だと言っても戦いは避けられない。そんな事はわかっているが念の為、本当に念の為、一抹の希望を持ってクリプットにある提案をしてみる千堂。
「あぁーーー、今はどっちも負傷しているしお前達、魔族?は此方の世界の人間に敵対してた訳じゃないんだろ?なら、痛み分けとか────ダメ、だよな。わかってる。聞いてみただけだ、マジで」
千堂はクリプットの顔を見ながらそんな事を伝えてみたが、千堂が何かを伝えると共にクリプットの顔が歪んでいっている事に気付いたので自ら言葉を止める。
「────何を言うと思ったら痛み分け、だと?笑わせるのも大概にしろ。貴様ら人間はどの世界線でも我等魔族の怨敵には変わりない。それによくわかった。貴様ら人間は最後まで止めを刺さないと死霊の様に這い戻ってくる不快極まる生き物だと、なッ!!」
クリプットはそう言うと空間から真っ黒な死神の鎌の様な物を取り出す。
そのまま間髪入れずに千堂に向けて襲いかかって来る。
何処から鎌を取り出したのかとかは不明だが今は目の前の敵に集中だな。
千堂はそう考えると自分も予め用意していた盾を出して構える。ただ、千堂とて悪口を言われて「はい、そうですね」と納得をする
「はっ!それはお互い様だろ?手前こそ何度死ねば気が済むってんだよ!この────"ゾンビ野郎"がッ!!」
ガキッンッ!!!!
クリプットが振るう鎌を自ら手で持つ盾で弾き返す千堂。
弾き返されたクリプットは怯む事なくそのまま空中で一回転すると千堂に追撃する。
「俺を"ゾンビ"などという低俗と同じにするなぁッ!!────「
クリプットは空中で姿勢を変えるとそのまま千堂目掛けて鎌を振るう。
鎌からは飛翔する赤い斬撃が幾つも発生し、それが千堂へと飛んでいく。
「そう、言われたくなかったら潔く死にやがれ!!────「
宙に浮かぶ歪な形の盾は千堂の気持ちに呼応するかの様に勝手に動き、目前に迫る赤い斬撃を全て叩き落とす。
「まだそんな
「煩え!!こちとらこれでも精一杯なんだよ!だから────早く倒れて下さいィィッ!!」
血相を変えて襲ってくるクリプットと少しふざけながらも懸命に対抗している千堂は自らの命を懸けて互いの武器をぶつけ合う。
◇
千堂とクリプットはあれからも互いに勝敗を譲る事はなく戦い続けた。千堂は護りながらの戦いの中、被弾してしまった攻撃の数々で所々血を流していた。
そんな満身創痍な状態の千堂とは違く、クリプットは千堂から受けた傷も今は治りピンピンとしている。
千堂だけが深傷を負っているという状況になっていた。ただ、自分が護っている背後にいるパーティメンバー達には一つも攻撃させていない。
「────これは勝負があったな。人間、立っているのも精一杯だろ?」
「は、はっ!何、言ってやがる!俺はまだ、行けるぜ!!」
クリプットからの返事に強気で返す千堂だが、その表情からは覇気がなく、既に千堂が限界というのは見なくてもわかる。
ただ、それでも尚も立ち上がってくる千堂を見て、戦って────クリプットは何処か気持ちが悪い生物でも見るように千堂を見ていた。
「────お前ら人間はイカれている。お前らの考えは狂っている。既に勝敗は決まっているのに何故抗う?何故、そんなにも生に執着をする?────これまでの戦いの中で俺に勝てないと骨の髄までもわかっているはずだ!!なのに、何故、何故だ!!!」
そう問い掛けてくるクリプットの言葉を聞いた千堂は────呆れていた。
それはそうだ。そんなわかり切っている事を聞いてくる奴が目の前にいるのだから。
「────何故もクソもねえよ。それは────"生きるため"に決まってるだろ」
「生きる、ためだと?」
クリプットに問い返された千堂は一つ頷く。
「そうだ。お前みたいな不死者には到底わからねぇだろうが────全ての命に終わりがある様に命とは終わるものだ。ただ、だとしても理不尽に奪われて良いものじゃぁねぇんだよ!俺みたいに年取った奴が死ぬのは良い。でも、こいつらみたいに未来ある若い奴らが簡単に死ぬ世界など誰も望んじゃいねぇんだよ!!」
背後にいるであろう自分が護るべく人々に伝える様に千堂は叫ぶ。
「────
クリプットはそう呟くと静かに魔力を貯める。
そんなクリプットに千堂はなんとか構える。ただ、何もできそうにない千堂はせめて自分の身体を犠牲にでもと思っていた。
「────強者が生きて、弱者が死ぬのは当然の摂理だ。だから貴様らの様な俺に負ける弱者は、死ぬべきなんだ。────
ただ、クリプットはそう魔法の詠唱を唱えるとさっきの鎌は既に手になく、それとは別に血に濡れたような真紅の槍を作り出す。その槍を右手で持ち背後に引くと千堂に投げつけるフォームを作る。
(────おいおい、アレを止めないと背後の奴等にも直撃するぞ………それに、練る魔力がもう、ないぞ────)
斬撃とかならなんとか自分の身一つで止めて防ごうと考えていた千堂だったが、完全に予想が外れ、窮地に立たされた。
それでも尚、千堂は諦めない。
自分の身を呈してでもみんなを護るように前へでる。
そんな千堂の元へ────
「────玉砕は、アンタらしくないだろ。アンタはまだ、"死ぬ"べきじゃない」
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