第4話 魔物との死闘




 その音を聞いたさっきまで熊型の魔物の肉に夢中だったオオカミ型の魔物達は幸太を見つけると今日は獲物食糧が沢山いるなというように、余裕からかユックリと近づいて来た。


 そんなオオカミ型の魔物を見て幸太は。


「──ッ!まずいまずいまずい!!動け動け動けーー!何で、足が動かねぇんだよ!?」


 自分の動かない身体に絶望をしていた。幸太自身気づいていなかったが初めて会った魔物に体は恐怖していたのだ。頭では「逃げろ!」と理解していても体が竦み上がって動かないのだ。


「クソッーー!終わるかよこんな所で!もし犬畜生駄犬何かに喰われてみろ──屈辱過ぎて終われねぇだろうが!」


 そんな事を言っても敵は待ってくれない。刻一刻と迫る死。もう目と鼻の先にオオカミ達はいて「いつでも殺してやる」と言わんばかりにこっちを見て来ている。

 その魔物の姿を見て幸太が取った行動は無様に逃げるでも戦士として勇敢に戦うでもなく ……「命乞い土下座」だった。


 初めは死んでも良いと思っていた。でもこんな理不尽な死に方など、ごめんだった。

 そんな幸太は無様にも魔物相手に地面に額をつけると「命乞い土下座」をした。


「助けてくれょー?頼むよ何でもするからさー!?そうだ!俺が餌を取って来るからさぁぎゃーーーー!ぎゃあああああ!?痛い痛い痛い!?辞めてくれ!頼む!」


 「命乞い土下座」をしていた幸太だったが、そんな事魔物には分かるわけもなく一頭のオオカミ型の魔物に脇腹を思いっきり大きな大顎で噛まれてしまった。


「この、離せ──がっーーー!かっ──ぎゃぁぁぁーーー!?がっ、この!舐める──なぁ!?」


 オオカミに噛まれもう無理だと思ったが、最後の力を振り絞りオオカミの左目の中に思いっきり右指を突っ込んでやった。


「キャウン!?」


 幸太の突然な行動。くるはずのない突然な痛みにオオカミ型の魔物は驚きながらも小さくくと幸太から逃げようともがいた。だが、幸太は絶対に、死んでも、離さなかった。


 ──例え腕が引きちぎれようと。


「は、ははははっ。ど、どうだー?犬畜生駄犬?絶対に勝てるであろう弱者ザコにやられる気分はよぅ?……ぐっ!……悔しい、だろぅ?だが辞めねぇよ!お前が先に手を出したんだ!我慢比べと行こうぜェ!?」


 そんな事を言ってる幸太だが内心は。


(──ッ!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いーーーー!?ふざけるな!ふざけるな!ふざける、なぁ!?こいつを道連れにするまで絶対に死なねぇーーー!死ぬ訳にはいかねぇだろぅがぁっ!?)


 痛い。苦しいと泣き叫びたかったが、その事は内心だけに留めていた。


 幸太とオオカミはその攻防を10分程続けた。



 ◇



 そんな中、ついに決着が着き。勝ったのは──幸太だった。


 決めてはオオカミ型の魔物の目の中に突っ込んだ手が運良く脳に到達して絶命させた事だった。そんな、幸太の脇腹を噛んでいたオオカミ型の魔物はもうピクリとも動かなくなっている。幸太はその事に喜びたい気持ちもあるが、もう動く気力も、体力さえも残っていなかった。

 それにこの流れている血の量じゃそのうちに死ぬと幸太には確信が持てた。

 他のオオカミ型の魔物にやられると思ったが、運が良い事にさっきの攻防のお陰かオオカミ型の魔物は一頭もいなくなっていた。


「は、ははっ。勝った、のか?……でも、もう無理だ。ここで、終わるリタイアのか……」


 そんな言葉を発した幸太は無情にもその場で倒れた。

 幸太には分かっている。この世界は今までの平和な世界では無いと。簡単に人が死ぬ世界。死と隣り合わせの生活。非日常ひにちじょう残酷ざんこく不平等ふびょうどうでどうしようもなく救われない世界だと。


「──でも、嫌だ、なぁ。死ぬのは、誰にも知られずに消えるのは、嫌だなぁ。もっと生きたい。それに、強くなりたかった、なぁ──」


 幸太はそんな言葉を残すともう意識が保てないのかそのまま目を瞑ると目前に近付いている死をただ、待った。

 ただ、そんな確実に近付いてくる死の間際、幸太は考えた。


 ──もし、運命があるのなら。生きて、生きて。生きて生きて生きて──その先に────────────────


「……」


 そんな事を考えていた幸太だったが、もう既に物事を考えるのも億劫になってしまったのか最後まで考える事が出来ず、その場でただ、無言で死を待った。




 そんな時、「ダンジョン内この空間」には似つかわしくは無い明るい声がひびき渡った。


コングラーチェーション素晴らしい!工藤幸太君。君は凄いよ、評価するとも。僕の目には狂いは無かったみたいだ。それにそのまま死ぬリタイアなんてごめんだろ?まだ早い、そうだろ?だから早く目覚めなよ?僕が待ちくたびれちゃうからね」


 そんな陽気な声と共に幸太の意識は「プツン」と完全に途切れた。

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