第170話

現実逃避をしている間に周りは騒々しく走り回っている姿が目に留まる。

海底に錨を落とし船は止まり唯々推定クラーケンは私達のことを見続け様子を伺っているようにも見える。

となれば知性というものがあるということだろうか?


「あっ…やっぱ知性なんか無かったわ」


そう呟く前にクラーケンはその長い触手をこちらへと鞭のようにしならせ打撃を与えてくる。

瞬間船は大きく揺れ爆弾が爆発でもしたかのような大きな音を響かせる。

それはまるで耳の近くで銅鑼でも鳴らされたかのように耳に残りその残響が耳を傷ませる。


達人が確か鞭を振るうと軽く音速を超える速度を出すと言われていると何処かで聞いたことがあったっけ…その時はそんなの大袈裟だし誇張表現だと思っていたのだが…。

この巨大な身体であり手足が鞭と同一の存在から放たれる鞭の動きは一体どのぐらいの速度で飛んでくるのか全く予測も立たない。

まぁ言えることとがあるとすれば少なくとも音速は超えてくる攻撃だろう。


となれば魔力での身体強化を含ませた人間の鞭使いって最強なんじゃね?

と考えるが…まず冒険者ギルドでも鞭使いってのは見たことないんだよなぁ。

やっぱ基本的に集団行動が主体だから流行らないのだろうか?


そんな悠長な考えをしてる間に甲板にはローブを着た集団魔法使い達が集結した。

魔法使いはその場で即座に詠唱を始め火の玉や土塊を飛ばしクラーケンを攻撃をするがその殆どが体表面に当たって傷すらつけずに崩れていく。

だがその中でも目を見張るのも見えた…この船から放たれるバリスタの大型矢がクラーケンの触手に突き刺さったのだ。


「魔法はあんま効きそうにないか…所謂魔法威力半減ってやつなのかねぇ」


スキルがある世界だしそんな能力がある魔物がいたとしても何ら不思議ではない。

まぁ本当にクラーケンがそんなの持っているのか何てわからないに尽きるが。


あんなイカかタコかもわからない魔物だがコレだけは言える…絶対にヌメヌメしてるだろアイツ。

そんな奴は大抵剣での攻撃は相当な腕がないと太刀打ちできない…何せ滑るせいでその肉体に刃が当たらんからな。

まぁまずあんな音速を超える速度の触手を避けて滑る巨大を上り急所に剣で傷をつける何てどうすればできるのかって話だが。


「バリスタッ!第二投放てッ!」


その大声と共に用意された大量の大型矢がクラーケンの身体に当たって突き刺さる。

大半が触手により空中で弾き落とされたりはするもののそれを掻い潜りながらクラーケンの身体に突き刺さっていく。

魔法ではあんまし効かない…バリスタでの攻撃のみがこの戦場を支配するがクラーケンもそれに対抗して船に向かって触手を文字通り飛ばし船を覆う結界に叩きつけられる。


この結界はかなりの強度を持つみたいだがその分維持コストも莫大な魔力を消費する筈だ。

そして結界に与えられたダメージも修復するには魔力を消費する筈だからこの結界は消耗戦になればなるほど不利に長期戦になれば必ず敗北することが決まっているような代物だと言える。


そんな悲観した考えが頭によぎった時漂う黒い火の粉が目に映った。

黒い炎を鎧として纏った者が空へと飛び上がり船に叩きつけられ触手をその身体で弾き船からさほど離れてない海面に方向を変えてその反動として船に叩きつけられる姿が見えた。

叩きつけられてもなお立ち上がっては即座に空を見上げて音速で攻撃を加えてくる触手へと立ち向かっていく。


こんな状況を見てここに乗る貴族はどう思うだろうか?

強大な敵に逃げ出したくなるのが普通だろう…だがアイツは戦っている。

普通ならば自分の身を何としても守る為高位の騎士を自分の為に使い守らせるのが常識だ。


ならば誰もが思うだろう「アイツは異常だ」と。

守られる筈の貴族が自ら動いて「敵を倒さんとする力を持つ者だからこその当然のこと」とまるで語るように行動をする。


敵は生物だ…野生本能で一瞬でも敵わないや弱っていないと思えば勝手に離れていく可能性もある。

それに私やアルキアンは逃げられる道もある。

私が大量の魔力を使って『転移』を使えば私達2人はここから撤退することだってできる事は暇な馬車の中での雑談の中でも話した。


…アイツに限ってそんなこと忘れる何てことないと思うんだが…何でアイツはクラーケンを本気で倒そうと必死になっているんだ?

当たりどころが悪かったり下手すりゃあ死ねるし相手の攻撃は痛いだろう?


「何でどうとも思ってない他人に本気になれる?」


そう呟き足を前に進める。

そしてその呟きの言葉を頭で否定する…つまりは気が変わったというわけだ。

こうしている間にもバリスタは発射され続けクラーケンの触手は船に届かないせいかバリスタの大型矢を弾くことなくそのすべてが船に叩きつけるモノのみになっていっている。


焦っている…つまりはチャンス到来。

このまま行けば倒せるし膨大な経験を積める。

転移には大量の魔力が必要と言っても私の持つ全てがというわけでは無いそれに転移はできなくなってしまっても…まぁ他の魔術を使えば船を囮に触手の届かない程の上空に飛んでどっかの岸には行けるだろうしやる価値はあると考えたのだ。

それにクラーケンと対峙したとした実績や貴族からの信頼も獲得できる。


「うん…コレはチャンスだな。この後の人生を円滑にする良い機会だ」


ダメージを与えれば痛みに耐えきれずに深海に帰っていくだろうし倒せたらそれはそれで美味しい。

気分次第で考えが変わるってのはいつになってもやめれない癖になっている…前世からの癖だそう簡単には変えられない。

その行動一つにでも価値があれば行動する人間らしいと言えるのでは無いだろうか?


「さて、果たしてコレは価値のある戦闘になるのかな?」


勝ち負けは時の運と言うらしいが今回は運は向いてくるのだろうか…そう思いながら魔法陣を構築していく。

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