第166話

ただただぼーっとして時に魚を釣るために真剣になり時に全然釣れないアルキアンのことを馬鹿にしながら釣りをする。

とりあえず私は2時間ずっと釣り糸を海に投げ込み釣れた魚は15匹ほど対してアルキアンが釣れた魚はその半分にも満たない4匹ほどしか釣れてない。


それを私は話の種にして揶揄っているのだがその度に反発して反応してくるのだからこれが面白い。

まぁコレだけ釣りをしていると魚ではないのも釣れてくる。

実はいうと「ほど」という曖昧な言い方をしているのはそこが原因なのだ。

やはり異世界…釣りをしていると明らか魚ではないモノも釣れる。


「うぐぐぐぐ…今度こそ大物だよレナッ!今度こそ魚のはずなんだ…」


横で釣り糸を海に落としていたアルキアンは何かがかかったようで必死になってリールを巻き上げてかかったモノを釣り上げようとしている。

最初釣りをしていたところよりだいぶ歩き離れて釣り専用の場所とでも言えば良いのだろうか…そこに行ってからというもの身体の大きい大物も釣れるようにはなったがその分こういうのも釣れるようになるって訳で。


「こぃやぁッ!おらぁぁッ!」


そう咆哮を上げながら釣り上げたモノはマグロほどの魚にしては大きな体躯に4本の用途不明なヒレのある腕に体外に露出した多くの歯が見える口を持つ魚が釣れた。

コレがここにきてからアルキアンがずっと釣り上げている謎の生物。

明らかに魔物にしか見えず食べられそうにもないことから魚としてカウントしないためアルキアンの釣り上げた魚が少ないのはそのせいである。


食べれないし生きているだけで私たちにとって害になりそう…そんな自分勝手な考えでコイツは人生の終着点へと行き着く。

それは…アルキアンの八つ当たりだ。


釣り上げ釣り糸共に空に打ち上がったその謎の生物に怒りの炎が当たる。

アルキアンの身体から黒い炎が漏れ形を成す。

それはアルキアンの怒りそのものであるかのように形を象り間も無くして狼の顔のように変化し空中で釣り針が魚から取れた瞬間狼は謎の生物に空を駆け追いついて喰らいつく。


瞬きするより速く謎の生物の身体を黒炎は包み込み…そして何かを燃やしたかのような塵だけ残し空へと消えて元々何もなかったかのようにアルキアンはまた釣りの体勢へと戻り釣り糸を海に投げ入れた。

最初は狼の喰らいついた部分しか塵にできなかったのにそれがこの2時間で身体全体を包んで全てを塵にすることが出来るとは成長を感じる今日この頃であります。

まぁ偶に釣り針が取れなくて空中で釣り針諸共消し炭して塵にしているのはどうかと思うが…。


「次こそ…次こそは釣れるはずなんだよ?」


今日何回言ったかわからないそんな言葉に私は苦笑しながら丁度しなった釣り竿を上に引き上げリールを巻く。

少し重いが釣れないこともない視界の端ではアルキアンがオロオロしているがそれは最初の何をしていいのかわからないと言った感じではなくこれ以上スコアを引き離されるからという理由での負の感情から来るオロオロとした行動と思うと笑えてくる。

そうして私は一気にリールを巻き上げ釣り上げたのは…虹色に輝く綺麗な鱗の魚が釣れた。


「うーん…ニジマス?結構でかいし海で取れたからこういうのってサーモントラウトだったか?」


湖とか淡水の場所で取れたのがニジマスで海とかで取れる奴がサーモントラウトってのをどっかで聞いた気がするのだが…うん虹色やな。

ま、異世界な訳だしそこら辺の生態とか考えても意味ないな。


顔を動かしアルキアンの方を向く…視界の先でアルキアンは明らか不機嫌というオーラをしており私はつい吹き出してしまった。

そうして時間はあっという間に過ぎていく。

ただただ釣りをしているだけであったが充分に有意義な時間だと胸を張って言えるだろう。


因みに勝負は私の圧勝であった。


「そろそろ日も落ちてきたし宿屋のほうに行こうか」


時間が過ぎ日も傾き夕暮れと言える空になった頃私はそう切り出し予約している宿屋へ行くことをアルキアンに伝えた。

アルキアンは魚の圧倒的な差に呆然としながらもうなづき散らかした物を片付け釣具を返した。

釣具を貸してもらった店の横にはいつの間にか屋台が設置されておりそこでは朝見かけた屋台の人が呼び込みをしながら私たちと同じく釣りをした人たちから魚を買っている姿があった。


魚は足が速いというのがあるのだがあぁして今日のうちに仕入れて魔法や魔道具で保存して朝に屋台で売っていると思うと良くそれで生活できてるなぁと思える。

釣りをしている人が居ない日があったらどうなるんだろうか?

まぁその時はその時で売るものがあるのだろうと私は勝手に思うこととした。


そんなこんなで私もそれに倣って釣った魚を売ることとした。

まぁあれだけ釣っといても消費しきれないのは目に見えてわかっていたことだし宿屋で調理してもらうってのも何だか申し訳なくなるということで今日釣ったのは全て売った。


因みに売った中で一番売値が高かった魚は虹色の鱗を持つニジマスっぽい魚…ここではレインボーシートラウトという海で偶にしか取れない高級魚らしい。

また、湖ではそれより少し身体が小さいレインボーレイクトラウトという海のとは違い数は少なく身も小さいことで旨みがレインボーシートラウトより凝縮されている伝説の超高級魚が存在するらしい。

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