第89話
ギルドから歩き出し数分私たちはとある店に来ていた。
店名は『豚の蹄』となんとも言えないセンスのある店だが一応はこの街の一番良い食事処らしい。
高級店であり貴族か高額の金を払う探索者しかここに来ることはなく個室で食事することが可能な店なのだとか。
そんな中で私たちは何をしているのかというと…まぁ10層を突破したということで祝杯をあげていた。
「…「「「乾杯ッ!」」」」
そうして私たちの祝杯は上げられた。
目の前には豪華に飾り付けられた肉や野菜があり見た目は美味しそうである。
だが、味はというと…まぁ微妙であるかな?
香辛料がクソがつくほど使われておりあまり口に入れたく無い感じだし脂身が多いのであまり食が進まない。
私は静かにナイフで切り取った肉片を口に運びコップに入っているなんかの果実を搾ったジュースで胃の中に流し込むため息を誰にも気づかれないようにつく。
そんな感じで食事会は進められていくが一向に私の目の前にある皿の上にある肉はなくならない。
そうして私がようやく皿の上にある肉を食べ終わる時ヨグは唐突に口を開き喋り出した。
「次はさ、首都に行ってみないか?」
唐突に言われたその言葉に思わず口が半開きになるがすぐ口を閉じ耳を傾ける。
ヨグは口を閉じずに喋り続ける。
内容は宝物を探すために活動場所を首都にあるこの国最大級のダンジョンに乗り換えるとのことだった。
ドローさんにはこのことをもう言っておりギルドに借りていた部屋も返したのこと。
そして今日の夜出発とのことだった。
私は耳を疑った。
宝物を探すために首都に行くだって?
そんなのここのダンジョンでも探すことができるし現にこれまでダンジョンに潜ってきてお宝は手に入れてきた。
それにココナとミルマには話を聞いている間相槌を打っているから元々このことを聞かされているらしいが何故ダンジョンに入る前にそのことを話さないんだコイツ?
…私は少し勘違いをしていたようだ。
私はコイツのこと、いやコイツの生い立ちや追放の件を聞いて前世のことから考えてコイツは小説の中の人物のような所謂主人公だと思っていた。
主人公ならこの急激な成長だって理解できるし仲間のできる速さにも納得ができた。
だが所詮それは物語の中でのお話であって現実のことでは無い。
ぶっちゃけ言うとここのダンジョンを制覇して何かしらのイベントがあってから首都に行くんだと思った。
話を聞いて私は勝手に落胆した。
まぁ期待していた方が悪いとでも言うか…コイツはただの天才だった。
ただそれだけの存在だったというわけだ。
「私…行かない」
急に何もかもがバカらしく思えてきてそんな言葉が口から出てそれと同時に体が動き出す。
立ち上がり虚空庫から金貨を数枚取り出し机の上にに置き扉を開け店を出る。
店を出て数歩しヨグが私のことを呼び止める。
「ど、どうしてだい?一緒に首都まで…」
そういい出し私の肩を掴む揺さぶる。
が私の顔を見てその続きの言葉を止め硬直しその肩に乗せている手を引っ込め数歩後ろに下がった。
そうしてヨグは地に膝をつき頭を下げこう言った。
「数日間ありがとうございましたッ!」
その言葉を聞き私は今いるべき場所へと歩き出した。
期待する方が悪かったんだ。
どこかで聞いた話がある探索者とは宝物をダンジョンで探す職業…レベルが合わない仲の悪い仲間との解散は珍しくない。
そうして私は探索者ギルドへと立ち寄った。
この時間はいつもだとダンジョンから帰ってきた人で賑わっているはずだが今日に限ってそんな賑わいが見えない。
私は周囲をキョロキョロと見渡しながらドローさんが受付をするカウンターまで歩いた。
「ヨォ嬢ちゃん…やっぱりコレか?」
そう言われドローさんは後ろから一枚の紙を取り出した。
それは『パーティ解散届』というなんともわかりやすい一枚の紙だった。
私はそれを受け取ると自分の名前を書き出す。
別に心残りなどは無い…少し早まったという後悔はあるがこれが私にとっての最適案だった。
ただそれだけのことである。
そうして私は『パーティ解散届』をドローさんに渡してから私は宿を目指して足を動かす。
その途中探索者ギルドの壁に貼ってある一枚の貼り紙に目が止まる。
内容は首都のダンジョンで神遺物級のアーティファクトがたくさん取れたという記事だった。
だからこそヨグは今熱いとされている首都を目指すのだろう…ここの街の探索者はこの記事を読んで殆どが首都へ足を向けたのだろう。
私という人間は探究心と強さを求めて行動するまさに冒険者の生き方だ。
だが探索者は違う。
探索者は遺産やお宝を求めてさまざまな場所を転々とする。
これが私とヨグの違いだ…だからこそこれでよかったんだと私は思える。
「これが価値観の相違というやつなのかな?」
そうしてまた私は歩き出す。
街は暗く前まであった屋台も撤退して賑わいがなくなっていた。
探索者だけがいなくなるだけでこの街は退廃していくそんな中私は夜の夜道を歩く。
その足取りは重りから外れたかのように軽かった。
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