第86話
…ヨグ side…
僕の名前はヨグ、ギルドで住み込みで仕事をしながら探索者をしている。
そんな僕は今夢にも見なかった10層という大舞台でそこの階層主の一体と対峙していた。
僕は昔から人より何かとて劣っており馬鹿にされ生きてきたが優しさというのを忘れずに生きてきたつもりだ。
そのおかげというべきだろうか…ある日隣町までその時一緒に活動を共にした幼馴染のパーティと遠征を行って帰る時倒れている人を見つけ幼馴染達に反対されながらも助けた。
それが僕の人生の転機となった。
助けた人の名前はレナさんという女の子だった。
僕はその子を町の診療所まで送り毎日のように彼女のいる診療所に通い話をした。
僕には幼馴染がいるが馬鹿にされるからあまり喋らない、親代わりになってくれているドローさんとは時間があまり合わないから喋れない。
だから僕にとって彼女は初めて長い時間喋ることができる、気が休むことができる人だったんだ。
そして退院した彼女は僕とダンジョンへ行ってくれた。
僕は彼女を守ろうと必死になって唯一の特技とも言える槍での攻撃で精一杯守ろうとするが…予想外なことに彼女の方が強かった。
だがそのおかげで5層の階層主を倒すことができた。
その階層主が落としたダンジョンの秘宝とも言えるトレジャーボックス、その中にあった神の遺物とも言われるS級のアーティファクト…『鍵穴付き銀のネックレス』に目を引かれた。
見た瞬間手が思わず出てしまうくらい目を引かれ僕は彼女にネックレスを譲ってくださいと頼み込みそうして手に入れた。
僕はコレを見た時即座にコレの情報が頭に浮かんできた偽装名『鍵穴付き銀のネックレス』…本当の名は『時空の鍵穴』というまさしく神が持つような効果を持つアーティファクト。
効果は僕の持つ固有スキルである『エーテルの掌握者』で僕の体内や空中にあるエーテルで鍵を形作り鍵穴に刺すことで効果を発揮し『不完全体』の不活性化やステータスの向上、さらには属性魔法を際限無く使えるようになるという僕に利しかない効果だった。
それを使い僕はひとまず人を助けることに使った。
1日で出来ること全てを行い助けられる人を自分のエゴで救った。
そのおかげで僕の持つ属性のことを理解でき一緒に探索してくれる仲間ができた。
そして僕は今仲間と一緒に10層の階層主と対峙していた。
目の前には真っ黒で蜃気楼のように揺れる身体と剣を持つゴーストがいた。
もう一体のゴーストとの距離を離すために薙いでゴーストを飛ばしたがまるで何も喰らってないかのようにコイツはピンピンしており剣を構えている。
もう一度体制を整え槍を構える。
その瞬間剣を持つゴーストは剣を僕の方へと向け連撃を繰り出してくるが一息置いてから槍でその連撃を応戦する。
ゴースト持つ剣は振るごとに黒いモヤのようなものが剣へと集まりまるで大剣を形作るかのように集まってくる。
「長期戦は逆効果か…ココナ!ミルナ!魔法での援助を頼むッ!」
そう僕が叫ぶと力強く振るわれる剣を槍で滑らせ空中に振らせその隙に後ろへとステップで移動する。
ココナは僕があげた魔法玉を投げ炎を生み出しミルナは水の魔法で水の鎖をゴーストへと打ちゴーストの動きを封じている。
そうして僕は体内にあるエーテルを手に集めそれを手と手の間の空中に発生させ鍵の形を作る。
そして出来上がった鍵を手に取り鍵穴へと差し込み回す。
鍵を差し込み『時空の鍵穴』からは光が溢れ僕に全能感を与える。
『不完全体』から外れ本来の力以上の能力を手に入れた僕はもう誰にも負ける気がしなかった。
ドローさんにも幼馴染にも…そしてレナさんにも負ける気がしない。
槍を構えて詠唱を始める。
「時空よ歪め!短き空間を紡げ!『ショートワープ』!」
詠唱を始め空間が歪み空間に突如として穴のようなものが出来上がりその中に入る。
僕の解釈では時空とは時間と空間であると考えている。
だからその空間である距離と時間を操れば僕には最高のアドバンテージが得られるというわけだ。
「さぁ最後にしようじゃないか…我は欲す!我以外が動かぬ時間を今ここに顕現せよ!『クロックストッパー』ッ!」
その瞬間に世界が固まる。
燃えていた炎は凍りついたかのように固まり蒸発しては再生されていく流動していた水の鎖は突如としてその働きが止まる。
自分以外は動かない…否動けない。
この魔法は大体10秒ぐらいで解けてしまう。
だからこそ最高速度で槍を振るう。
肉質の柔らかい腹を穿ち失敗した時ように武器を持てぬよう手首を薙いで斬り頭を破壊し最後の5秒で魔石を穿つ。
そうして僕はその場から離れて…もう一度時間が動き出す。
ゴーストは魔石を持たぬ身となりその身を崩し霧のように実体を無くし魔石のクズのみがその場に残った。
「ははは…僕たちの勝利だッ!」
そう言い僕はココナとミエルの元に行くが彼女たちの表情が青いところを見てその視線の方である後ろを振り向く。
そこにはさっき僕が倒したはずの剣を持つゴーストが僕…いや僕たちを殺すように大剣を横にし薙ごうとしていた。
頭の中には一つの言葉が浮かんだ。
前にダンジョンに来た時レアモンスターと対峙した時レナさんが僕に放った言葉「よそ見」。
意味は本来見るべきものとは違う方向を向く。
僕に突き刺さる言葉だった。
本来階層主は死んだ瞬間にトレジャーボックスになるはずだった。
それなのにゴーストは崩れて魔石のクズになった…つまりトレジャーボックスにはなってはいなかった。
そもそも今回の階層主はツインゴーストという二体で一体という特殊な魔物。
二体一緒に倒さなきゃいけないのに何故僕は一人で時間を止めてまでして一体だけを倒したんだ?
ゴーストの大剣は僕たちの胴体を狙い振られてくる。
どうあがいてももうどうしようもない完全に僕の失態による敗北。
詠唱をして時間を止める時間も無い。
そうして僕は殺される怖さから目を瞑り…そうして目の前が白で埋め尽くされた。
…ヨグ side end…
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