第50話

そして俺は魔術を発動したまま膝をつく。

ナメクジはまだしぶとく粘っているがもう終わりだろう。


ローガンさんが大剣を掲げて振り下ろす。

まさに鬼神の如くその一撃は空間を切り裂き地面を割る。

二つ名を改名して鬼神にでもすればいいんじゃないかな?

切られたナメクジの身体は最初と比べて随分と小さくなった。

最初は一階建の家ぐらいあった身体が今では例えるなら…成人男性2人分ぐらいだろうかまぁそのぐらいの大きさまで縮まった。


ローガンさんに負けず騎士達も頑張っている。

魔法部隊に攻撃が行かないように盾で触手の攻撃を防いだり剣で切り裂いたりしている。

その中でもクラージュさんの攻撃はローガンと同等以上の攻撃を行なっている。

クラージュさんは右手で銀色のロングソードを持ち左手で淡い水色のショートソードを持って戦っている。

所謂二刀流という奴だろう。

器用に剣を扱い剣筋が真っ直ぐに動いてナメクジの身体を抉っている。


「はぁはぁ…MPが切れそうだな」


俺のMPは残り1割を切ってしまった。

このままでは支援もできなくなってしまう。

まだ終わらないのかと俺はナメクジのいる方向へ目を向ける。


ナメクジは奇声を上げている。

もはや触手を自由に動かすこともできなくなっていて体当たりで攻撃をしている。

だがその攻撃は騎士達が盾で防いでしまいダメージがない。

ナメクジの攻撃は防がれてまた大きな奇声を上げる。

そうしてナメクジの目は茎を伸ばし辺りをグルグルと見渡すように伸びそして俺の方を向く。


「お、オ、オ前ぅぇぇぇ!オ前、コの失敗作のセイでエぇぇ!」


ナメクジは目から血を出しながら今までにない速度でこちらへと近づいてくる。

その目はまるで寄生虫にでも取り憑かれたかのように赤と緑の縞々模様になっておりとても気持ち悪い。

俺は出している魔術の全てを解除し身体中の痺れがなくなったことを確認すると立ち上がりナイフを構える。


アイツとの距離は約300m。

ここまでくる速度を予測するとしてまぁ30秒ぐらいかな?

時間は十分にある焦らなくても攻撃は当たる。


俺はすぐさま動ける体制をとる。

攻撃は一瞬のみ、ここで当てなければ…。

ローガンさんやクラージュさんは予想外の行動で退避していたからあそこからじゃ支援も無いか。


もう一度身体強化を腕にかける。

頭の中で思い浮かべ右手を心臓に持っていき心臓に向かって魔法陣を描く。

1割のMPで一瞬だけ最大限の能力を引き出しアイツに当てる。

今更「避けられる」だの「当てられない」だの言ってらんない。

当てるしかない。


「魔法陣展開…限界突破…ッ!」


身体中に激しい痛みを感じる。

少し動くだけで激痛が身体中を走り回りぶっ倒れそうになるが耐える。

ナメクジはもう目の前。


「失敗作ゥヴゥゥゥゥ!死ネェェェェェェエ!」


触手が赤黒く染まり無数の槍となって俺めがけて押し寄せてくる。

俺は慌てず半歩後ろに足をひき迫りくる触手を避け次に来る触手をナイフを当てて弾く。

この際だから急所以外の所に当たっているのは無視だ。

アドレナリンが頭を巡りもう限界突破の痛みさえない。

ヤルには今しかない!


「我流戦闘術初ノ術…」


ナイフの刃を両手で持ち腕に力を入れる。

淡く光る粒子はバチバチと音を立て俺の周りを弾け飛び周る。

そして赫く粒子へと変わりその全てがナイフへと纏わりついた。

手を捻り足に力を入れて一歩だけ歩み腕を三日月を描くようにして地面へと叩きつけた。


「『崩撃』」


赤く赫く粒子はナメクジを難なく斬り裂く。

そうして地面へと叩きつけた粒子はそこから俺の周囲に広がり地を崩す。

崩したところから粒子が漏れ出しさらに地を崩し俺が切り裂いたところを中心として突風が吹く。

粒子は舞い上がり幻想的な景色となる。

そしてナメクジは、真っ二つに俺が斬り身体が地面沈んでゆく。


俺は魔術を解除して地にぶっ倒れた。

周りを見ると俺のいる位置から約20mぐらいかな?

それくらいまで地が崩れており人が歩くには少々困難そうだ。

そんなことを考えながら空を見上げる。


「全く持っての晴天だなぁ」


全く…今日は日差しが強いようで…。

俺は目を閉じた。


「さて、仕事はしたしここからは休暇でもとりますかね…」

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