第40話 ローブ

ゴブサンは探索している。


野良のゴブリンを見つけて、戦力とする為だ。


大狼の鞍にまたがり、10頭の狼達と霧の大森林の狼エリアを駆けている。


鞍も俺の特製、お肉の水分を抜き、クッション性と耐久性を持たせた。

乗り心地ごこち抜群だ。皮紐で狼に繋ぎ、足を乗せるペダルも付けた。

手綱は以心伝心いしんでんしんで気持ちが繋がりあっているので付けなかった。


ダンジョンのどこにでもいるゴブリンだが、見つけようとすると中々見つからない。この辺のゴブリンは狼にでも喰われているのかもしれない。かなりの時間をかけてやっと一匹のゴブリンを探し出す事が出来た。


狼達で取り囲み、ゴブサンが近づいていく、ゴブサンが蹴ると相手のゴブリンは蹴り返してこなかった。


交渉成立の様だ。ゴブサンが狼の方に向けて顎をしゃくるとゴブリンは

怖々こわごわ大狼にまたがる。


ようやく一匹のゴブリンが仲間になった。多少遠くてもゴブリンの集落へ向かった方が良さそうな気がする。


俺達のいるプールまで引き返すよう指示を出すと、珍しい気配を感知した。


そっと近づいてもらうと人間の冒険者だろうか?


七人の集団が休憩している。


俺は先頭の狼の中に意識を入れて千里眼で見てみると、大した事の無い魔力しか人間の冒険者達から感じなかった。


中堅どころの冒険者かもしれない。使い古した装備をしていた。武器は各自中々の物を携えている。人間の怖さは質の良い武器や防具を作れる事にあるのか?そしてそれを扱う技量なのかもしれない。


弓を持った冒険者と目が合った気がする。冒険者がおもむろに弓を引き、矢を放つ冒険者!あっと云う間に、俺の潜んでいた木の幹に矢が飛んできて深々と刺さった。


きびすを返し、一目散いちもくさんに俺達は逃げ出した。


危ない、危ない。もう少しで死ぬとこだった。魔力が少なくても人間は何をするか読めないところがある。俺は認識を改め、人間に対する対策を検討しようと思った。


とりあえず帰えろう。


ゴブサン率いる狼の集団は俺達のいるプールまで引き返す。


ゴブサンの装備はほとんど変わっていない。

武器は黒い短剣のままだが、装備していない。ベルトのさやは無くなり、代わりに大きめの玉が半分にされた半球はんきゅうがベルトの両端につけてある。

そしてローブの内側に取り付けられているのは、ゴブゴロウの盾に付けた物と同じマジックバックのプレートである。


そのマジックバックのアンカーはゴブニンの形見の胸当むねあて。中には魔力の込められた果実と、その果実の種が無数に入っている。残りは食糧と私物などだ。


さやの代わりに付けた半球はんきゅうの断面もマジックバックになっていて魔力を通す事で亜空間にゲートが開き、硬い絆で結ばれたゴブニンの気配を感じる事で使用可能になる。

俺の作った他のプレートも同じ仕組みだ。


ゴブサンはマジックバックを使って黒剣も、『魔球』で使う果実の種も、自由に取り出す事が出来る。


遠距離攻撃が出来る様になり、ゴブサンはより安全に幅広く活躍する様になる。


怖々こわごわ大狼にまたがる新入りのゴブリンに、ゴブサンの視点から見てみると、少しずつ大狼の走りに慣れてきた様だ。新入りの気配を感知する為に千里眼の意識を集団の気配に変える。


うっすらとゴブサンとの繋がりの糸が確認出来た。遠隔から魔力を操作して、ゴブサンから新入りに魔力を流してみる。繋がりの糸が光り、交流している様子を見て、更に魔力を強め、充分に新入りのゴブリンの魔力が満たされた。これで新入りのゴブリンも俺達と絆が深まり活躍してくれる筈。


そのいえば、俺も随分、魔力量が増えた。元の人間の魔力とゴブリンの魔力、そして狼の魔力が加わり、単純に三匹分の魔力量はありそうだ。更に俺は、ゴブリンで何度も進化していたりするので、魔力の質も量も変化している筈だ。これはもしかして、魔石を沢山喰らえば、単純に俺は強くなれるのか?


イヤイヤ、限界もあるかもしれない。

使えそうな奴、優先かな?

わからん。


話は変わって、ゴブゴロウの時よりも明らかにゴブサンの方が魔力の繋がりが良いのだが、これはもしかして、狼エリアの解放と関係があるやもしれない。

狼王討伐の効果か?俺の庭感が半端無い!


このまま狼エリアを抜けて、鹿エリアで狩りをしてみた方が良いな。


俺は進路をプールから鹿エリアへと変更する指示をゴブサン達にする。一糸乱れぬ動きで、ゴブサン達は鹿エリアに駆け出した。


ゴブサンから新入りのゴブリンに、魔力の込もった果実の種を一つ渡す。


ゴブサンの『魔球』と新入りの『魔球』を比べたい。ゴブサンの実力も把握したいので、単独でいる鹿ちゃんを探す。


鹿エリアに入るとそうそうに目標を発見!


狼達ゆくのだ!!


俺は狼達に指令を出して、鹿を追いかける。鹿が分が悪い!と逃走を図るが、ゴブサンが逃げ道に『魔球』を投げつけた。


バン!と『魔球』が炸裂して、瞬時に鹿が進路を変える。狼達は息のあった連携で、二手に分かれ、追跡する。もう一度ゴブサンが『魔球』を投げると鹿は逃げ道を失い狼達に取り囲まれた。


新入りゴブリンが『魔球』投げる。

見事!鹿に命中するが、一撃で仕留める程では無かった。ゴブサンが『魔球』狙いすまして投げる。


スッと森に吸い込まれる様に『魔球』は進み、鹿に命中、鹿の頭は爆散した。


新入りは『魔球』を投げる事が出来る事が証明された。


後は練習あるのみだな、ゴブリンを増やし、狼達と連携させるのは俺の想像以上に活用が期待された。


帰り道、何度もゴブサンは新入りに『魔球』を渡し投げさせた。


新入りのゴブリンはいつの間にかたくましく成長して、背丈もゴブサンに近づいた。


大狼に跨る新入りは、すっかりゴブサンの副官の様に仲良くなったのだ。


ゴブサン達がプールに戻ると、時を同じくゴブゴロウが帰って来た。


ゴブゴロウ達は大量の鹿を狩って来た。狼達とゴブゴロウ、ゴブサンと新入りは、鹿肉を奪い合う様に食べ、大いに絆を深めた。


俺はにこやかにその様子見守りながら、武器や防具の準備をする。


もうその作成は亜空間でする事にしている。


作業スペースは無限だし、素材の管理も簡単で意識するだけで、素材を呼び寄せる事ができる。俺は狼の身体で手は器用に動かない。亜空間に俺の足先の一部を入れ、土エレメントの魔力を操作して、武器などを作っているのだ。


傍目に俺は本当に何もしない怠け者の様に映っている気がして、しょうがないが、そんな時はいつもゴブイチが、

ヨシヨシ!ヨシヨシっと撫で付ける。


ゴブイチに抱っこされたまま、


俺はいつまでもそうしてモフモフされるがままだった。

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