第7話 ティアとの再会
アルウがアメンナクテのところに来て数ヶ月後、彼は急に思い立って、ナイルの辺の、昔、ティアとよく遊んだ場所に出かけた。
ナイルの辺に生い茂る、ロータスや葦やパピルスの草花、思い出の椰子の木。
その場所は、昔、父親と一緒に来た場所。あの黄金のオシリスを発見した場所。そして運命の女性、ティアと出会った思いで深い場所だ。
アルウはそこに着くと、父やティアと過ごした思い出の椰子の木陰に、ゆっくり腰をおろし、エメラルド色に輝くナイルを眺めた。
「アルウ」
そのとき、背後の土手の上から可愛らしい女の声がした。
「……」
振り返るとそこに、白く透き通るようなカラシリスを身にまとった少女が立っていた。
「ティア!」
驚いたアルウは思わず立ち上がり声を上げた。
「アルウ!」
ティアは椰子の木の下で立ち尽くすアルウのところまで駆け下り彼に飛びついた。
「わっ!」
ティアがあまりにも勢いよく抱きついたので、二人は抱き合ったまま地面に倒れた。
「心配したのよ」
「ご、ごめんね」
「謝らないで。嬉しいの」
「僕も嬉しい」
二人はそのままの動かず、お互いを確かめ合うようにじっとしていた。
しばらくしてティアが落ち着くと、
「座ろう」
そう言ってアルウはやさしく微笑んだ。
「うん」
ティアも小さく頷き、二人はゆっくりと起き上がる。
「また会えて嬉しいよ」
アルウが微笑みながらティアの瞳を見つめる。
「あたしも嬉しい」
ティアも黒くて大きな瞳を輝かせながら微笑んだ。
「離れていた間も、ずっとアルウと一緒だったような気がする」
「僕も。なんだか毎日ティアとここで会っていたような気がするよ」
「不思議ね」
「うん」
「あたしたち、ずっと思い合っていたのね」
恥ずかしそうにティアがちらとアルウの顔を見る。
「きっとそうだよ」
アルウはニッコリとティアを見た。
ティアは幸せそうに前を向いて微笑み、彼女の小さな頭を彼の肩に静かに傾けた。
遠くの対岸には漁師達が声を掛け合いながら網を引く姿や、子供達が裸で水遊びをしてはしゃいでいた。時折、帆掛け舟が沢山の荷物を積んでゆっくりと川を下る姿が二人の目の前を横切り、近くの川辺からは、水の流れる音に混じって、女達が洗い物をしながら楽しそうに会話したり水を汲んだりする音が聞こえた。
「ね、もう何があっても黙って姿を消したりしないって約束して」
「う、うん」
「あなたが家を追い出されたり、警察に捕まったりしたこと、ずっと後になって知ったの」
「……」
「あたしに出来ることなんて殆ど無いけど、あなたの役に立ちたかった。だからあなたが、あたしに何も言わずに姿を消した時、嫌われたんじゃないかって、とても辛かった」
「ごめん」
「ううん。責めているんじゃないわ。あなたの苦しみを気づけなかった自分が情けないの」
「そんなことないよ」
「あたしがもっと大人だったら」
「……あの頃、僕は泥棒してたから、情けない気持ちや後ろめたい気持ちが一杯で、君に合わせる顔がなかった。だから君になにも言わず姿を消したんだ」
「でもそれはお母様やムテムイアを守るためにしたことでしょう。もしあたしがアルウと同じ立場だったら同じようにしていたに違いないわ」
「ティア……」
アルウは愛に満ちたティアの言葉に胸がとても熱くなった。
「これからはずっと一緒よ」
ティアはそう言ってアルウの首にしがみつき、彼の頬に小さく接吻した。それから二人は日が暮れるまでナイルの辺で手を握り合い、日が暮れるまでじっとしていた。
こうして再会を果たしたアルウとティアは、ほとんど毎日のように会って一緒に過ごしたので二人の絆は深まるばかりだった。
妹のムテムイアもティアと再会すると、抱き合って喜び涙を流した。そしてアメンナクテとヘヌトミラも、この愛らしいアルウの恋人を家族同然のように可愛がった。
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