第14話 ジルおじさんからドラゴンの角をもらって超特級ポーション作りました
それからが大変だった。ウォータースライムの粘液を除去するのが大変だったのだ。
全て刈ってしまうと二度と月見草は生えてこないし、生えている分もこのままなら腐ってしまう。
ザックからシャベルを出してカートが粘液を掻き出してくれている間に、採取する分を採取して、カートが出してくれた水が入った折りたたみ式のバケツに入れて粘液を洗浄したのだ。
それで2時間余分にかかってしまった。私達が家に帰ったのは午前4時前だった。
「遅い。朝帰りです」
扉を開けるなり、玄関の前のホールのソファで寝ていたハンスに怒られた。
「仕方がないじゃない。月見草の群生地にウォータースライムがいたのよ」
あのあとウォータースライムの残りを見つけ出して倒すのにも時間がかかったのだ。
残しておくと月見草をすべて食べてしまうかも知れないし。
その上倒したウォータースライムの魔石の価値は銅貨1枚くらいしか無かった。
本当に無駄な時間だった。
風呂にも入らず、取りも直さず私達は爆睡した。
私が目を覚ました時は昼過ぎだった。
カートを寝させた部屋を見るともぬけの殻だった。カートは帰ったのだろう。
取り敢えず、風呂に入って朝食を食べる。
店に顔を出してハンスに尋ねると、カートは8時過ぎに起き出してきて、私に宜しくと伝言して帰って行ったらしい。
カートにも悪いことをしたなと私は思った。またお礼しないと。
ジルおじさんは1時過ぎに部下みたいな人を二人連れてやってきた。
顔が強面で皆ヤクザみたいだ。
その二人がドラゴンの大きな角を担いでいた。
「でかい!こんな角もらっていいの!」
私が聞いた。
「約束は約束だ。その代わりポーション作ってくれ」
ジルおじさんが笑って言ってくれた。
「じゃあ取り敢えず、ヤスリで削ってくれる。私は他の薬草を鍋で煮るから」
「おう、任せておけ」
ジルおじさんは大声で請け負ったが、若い人に指示して自分は椅子に座り込んで私が入れたお茶を飲みだした。
まあ、若い人が削ってくれるなら良いかと、私は巨大な鍋で水を沸かしだす。
中のお湯が沸騰しだしてから材料の薬草を次々に入れて煮る。最後に削ってもらったドラゴンの角を入れた。
後はこれをじっくりと12時間煮込むだけだ。
「何だ。それだけしか使わないのか」
拍子抜けしておじさんが言った。
「だってドラゴンの角はとても貴重じゃない。いくらドラゴンの角を中に入れたからって1年くらいしかポーションは効かないから、あまり作りすぎても仕方がないし」
私は説明する。
「残りはどうする?」
「おじさんに預かってもらうわ。必要な時にまた言うからその時は必要な文だけ頂戴」
「保管するのが大変なんだが」
おじさんが文句を言う。
「それは我が家でも一緒よ。でも、ハンスしかいないうちに比べておじさんの所の方がおそらく安全でしょ」
「そらあそうだ」
私の意見におじさんは笑って頷いた。
「でも、うちに来た不埒者が削って持っていくかも知れないぞ」
「それは仕方がないわ。全部おじさんにおまかせします」
私はジルおじさんに微笑んだ。私としてはドラゴンの角入りのポーションが作れればそれで良いのだ。
この1鍋あればポーション100個は作れるし、おじさんに50本渡して、王子達とカートに5本ずつ渡しても40本残るし、それで良いだろうと私は思ったのだった。
「まあ、やると言ったものは今更返せとは言わんし、管理はしてやろう。時々ポーションをくれればそれでいいぞ」
「しかし、ジル様。いつまでも無償で渡すというのは如何なものかと」
ジルおじさんの言葉にハンスが待ったをかけた。基本交渉事は私がするなと母にも言われているので黙っている。
「判った。でも角の原料はこちら持ちだしな、1本金貨25枚でどうだ」
「リアの作る超特級ポーションは1本金貨100枚の価値があると思うのですが」
「でも、それが超特級ポーションかどうかは判らないんだろ?」
「じゃあ普通のリアのポーションよりも使ってみて良ければ金貨50枚で」
「判ったそれで手を結ぼう」
あらあら簡単に値段が決まってしまった。
金貨2枚で大人の1年分の食費だ。50枚だと25人分だ。この調子だとハンスは幻の超特級ポーションとして、1本金貨100枚で店で売りそうだ。
ポーションは風邪薬の強いのが基本の普通のポーションで銀貨20枚。5本で金貨1枚。
解毒作用のある中級ポーションがその5倍の金貨1枚。
重傷者向けの上級ポーションが金貨5枚だ。普通の薬局にはここまでしか置いていない。
私が作る脚1本の欠損を直す特級ポーションが金貨25枚。
これを求めてたまにお貴族様が我が家に来る。その時の態度が横柄だと母がいると叩き出して二度と敷居を跨がせない。我が家はおそらく王都一、いや王国一気位の高い薬屋なのだ。
2年前にジルおじさんが叩き出したのが、どこかの伯爵家の執事だった。
何故かその後、伯爵家当主が真っ青になって謝りに来ていたが、ジルおじさんはどんな手を使ったのだろう?
ちょっと怖い人かもしれない。まあ、我が家はおじさんが狙っている母がいる限りは大丈夫だが。母がいなくなったら私もハンスと一緒にどこかに逃げたほうが良いのかも知れない。
「で、リア、この薬草はまさか一人で取りに行ったのではなかろうな」
おじさんが心配して聞いてきた。このおじさんも心配性だ。
「昔は母に言われて一人で行っていたけれど、最近はカートが付き合ってくれるから」
「うーん、カートか。若い男と2人というのはどうかとは思うが」
このおじさんも過保護だ。昔私が一人で薬草取りに行っていると聞いて母に切れていた。母相手に切れて良いのかとも思ったが、母もその時は何故かおじさんの意見を聞いてくれた。
それからはハンスが一緒に来てくれるようになったのだが、ハンスはかえって足手まといで一人のほうが余程楽だったのだが。その後はカートが一緒に来てくれるようになって月に1度はカートとダンジョンに潜っている。
「じゃあ、おじさんが一緒に来てくれる?」
私は試しに聞いてみた。おじさんはおそらくカート以上に強い。
「いいが、おじさんは日給が高いぞ」
「どれくらいなの?」
「やっぱり金貨100枚くらいかな」
兵士10人の1年分の給与だ。日給としてはべらぼうに高い。普通は。
「えっ、今でもカートに私の作ったポーション5本渡しているから変わんないじゃない」
「そんなに渡しているのか。冗談で言ったのだが」
おじさんが驚いて言った。
「あのう、薬草取りくらいなら私がその10分の一でついていきますけれど」
おじさんの若い部下の一人が言った。
「おい、やめろ、デミアン。そんなのバレたら辺境の地に即座に飛ばされるぞ」
もうひとりの年上の男が注意した。
「そんな事しませんよね。団長」
デミアンと呼ばれた男がおじさんに聞いた。団長ってなんだろう。でも知ると下手したら消されるかも知れないし・・・
「わしは飛ばさんが。カートが許さんかもしれんな」
聞き捨てならないおじさんの一言に私は固まった。
えっ、ひょっとしてカートって強面の団体の関係者かなにかなの。今度それとなく聞いてみようと私は思った。
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