🪶

「今日は、来てくれてありがとうございます。少し、聞いて欲しい歌があります。私自身で、作曲、作詞した歌です。初めて披露するので、緊張しますが、聞いてください」


と、リハーサルにはなかった言葉を言うレイナさんに意味がわからないでいた。僕は何も聞かされておらず、戸惑うばかりだった。

歌い出したレイナさんの曲は、レイナさん自身を表したようだった。儚く切なく、どこか消えそうで、出会った頃からその印象だった。


「あなたの人生も幸せ?楽しい?生きててよかったとか思う?」


そんな言葉を言ってきたり、


「私、あなたを殺しに来ました」


なんて言ったり、本当に不思議な人だった。だけど、一緒におるたびに、たくさんの表情を見せてくれるレイナさんに気づけば惹かれていた。レイナさんは綺麗だ。人としても声としても。彼女は僕に、たくさんの幸せをくれた。ありがとうの5文字じゃ足りないくらい、感謝している。


泣きながら歌うレイナさんの姿に、僕も涙がでてくる。


『ごめんね、あなたに生きていてほしい』


その歌詞がまるで僕に向けているようで、いや、向けていて、余計に涙が止まらなくなる。

ここまで人を好きになったのは初めてだ。彼女は僕にたくさんの世界を見せてくれた。


『あなたが好きよ』


最後の歌詞。レイナさんの切ない歌声に声が出るくらい泣いてしまう。

レイナさん、僕も好きです。大好きです。一生僕から離れないでください。


LIVEも無事終わり、レイナさんがいるはずの楽屋に向かうと、レイナさんの姿はなく、代わりに涼太がいる。


「あ、涼太。レイナさんどこに行ったか知らない?」


「これ、読んだらわかるんじゃない?」


涼太は俺に一通の手紙を差し出した。手紙の内容を見て、気づけば僕は、勝手にいつもの公園へと走っていた。


「龍友さんへ


今日をもって私、明夜レイナは、この世を去ります。いきなりでびっくりしましたよね。後藤さんから聞いたんです。死神は、死んでも生まれ変わることができるが、死神の仕事はもうできないと。

龍友さんが死んでしまうより、私が死ぬべきでしょう?私は死ぬことによって、夢を叶えることできるんです。

生まれ変わって天使になれば、龍友さんを幸せにすることができます。これが私の夢です。

龍友さんは生きてたくさんの人に夢を届けるべきです。だから、私に死なせてください。そして私を忘れてください。         」


死なせてって、忘れてって、僕には意味がわからない。レイナさんが死ぬことは、僕は納得ができない。


たくさんの人の横を走って通り過ぎ、僕は急いで公園へと向かう。

公園へ着くと、ベンチに座り、黒色のノートを持って、名前を書いているレイナさんの姿があった。


「レイナさん!!」


と大きな声で名前を呼んだ。顔をあげ、驚いた表情で僕を見る。


「レイナさんはどうして物事を勝手に決めるんですか!どうしてレイナさんが死ぬんですか!」


「勝手に決めたことはごめんなさい。私が死ぬ理由は、手紙を読めばわかるはずです」


「読んだよ。納得がいかない!どうしてレイナさんが死ぬんだよ!」


「私、龍友さんの曲が大好きなんです。だから、死ぬには勿体無いと、はっきり思ったんです」


「じゃあなんで忘れろなんて」


「…龍友さん、私が死神なこと知ってるでしょ?人間に自分の正体が知られてしまった死神は、生まれ変わる時に、記憶が消されちゃうんです。だから…」


「僕が覚えておきます!だから忘れません!」


「違います!勝手に消えちゃうんです…覚えておけないんです…」


レイナさんは涙を流している。僕も辛くなって、涙を流した。


「なら僕が死ねば!」


「龍友さんが死ねば、生まれ変われないから、もう私たち、一生出会えなくなるんです…だから、だから、お願いです。私を死なせてください…お願い、」


「…いやです…いやです!!」


「龍友さん!」


レイナさんの体は、キラキラと輝き、そしてポロポロ消えていく。


「え?どうして、」


「もう名前書いちゃいました…私たち、そろそろ出会って3ヶ月じゃないですか、」


「うそ…待って…僕忘れないから!レイナさんを忘れない!!」


一生懸命にレイナさん抱きしめても、何も変わらない。


「私、龍友さんのことが大好きです。次会う時は、龍友さんを幸せにする天使になります!」


そう言い残して、レイナさんの身体は消えた。


「絶対覚えておく!大好きだから、、大好きだから!」


彼女のことを強く想い、涙が止まらない。


「…待って…誰だったけ…?名前が、、名前が思い出せない…!!ずっと大好きなのに…なのに!!」


イライラして、悔しくて、悲しくて、もどかしくて、たくさんの感情で涙が溢れるばかりだった。あんなに、大好きだったのに、僕は彼女を忘れてしまった。


それからすぐに、彼女の存在も、彼女を想っていた気持ちでさえも、忘れてしまっていた。

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