*☆放っておけないキラキラ女子☆*
亜麻音アキ
第1話 卒業式
「おええええええええぇぇぇぇぇっ――!!」
そんな不愉快極まりない、声とも音とも判別しかねる擬音なのかな? とにかく声になりきらない呻きと共に、じつに盛大にキラキラが溢れ出してきた。
ここで言ってる『キラキラ』とは、よくテレビ番組とかでそのまま映しちゃ問題のある、例のアレを隠すために使われ、けれども何事かが起こったことを的確に伝えるエフェクトのこと。
けれど、現実にはあんなキラキラと光り輝くような物体なんかであるはずがなく、実際に起こり得るアレの現場といえば、なかなかに形容することを躊躇われる場合がほとんどだと思う。
そんな、凄惨を極める現場が、目の前で起こったらどうする?
目の前というか、眼前、……むしろ顔の上で起こったとしたら、どうする?
想像してみてほしい。まるでスローモーションみたいに、視界を覆い尽くす勢いで迫り来るキラキラの滝。
覆い被さってきたうえでキラキラを顔に吐かれる。
これが、彼女との地獄みたいなファーストコンタクトだった。
なに言ってるかわからないよね?
だから、ちょっと話をさせてほしい。
――高校に入学した矢先に口にするのも躊躇われるひっどい目に遭った話を。
※※※
全国的にこの冬は暖冬だったらしく、今年の桜前線は例年より北上が早い予想ですとかなんとか、テレビの天気予報コーナーのお姉さんが嬉しそうに言っていたのを思い出しながら、校舎裏の桜の木をぼんやり見上げた。
でも結局のところ、中学の卒業式に桜が咲いてるなんてことなかった。
じつを言うと、いま眺めている木が本当に桜の木なのかどうかも怪しい。確か桜の木じゃないのもあったはず。桜だけが等間隔に並んでいたわけじゃない気がするけれど、そもそも詳しくもないしそんなに桜に興味があるわけでもないからわからなかった。
そんなどうでも良いことを考えながら、こんな校舎裏に呼び出しておきながらモジモジとかれこれ10分は黙ったまま口を開かない親友の
「そっ、卒業式、終わったな」
次は卒業証書を丸めて入れる筒のうろこみたいな模様を数えようかとしてたら、やっと三原が重い口を開いた。
「お、俺ら別々の高校だから、もう簡単に会えなくなるだろ? だ、だから、言うけどさ、ず、ずっとお前のことが気になってたんだ!」
「…………そうなんだ」
まあ予想はしてた。正直、ちょっぴり慣れてさえいる。
とはいえ、心底億劫で仕方ない。
たっぷり朝寝できると思っていた日曜日に突然用事が入って、普段以上の早起きを強いられるくらい気分が乗らない。
「別々の高校に進んでさ、俺の知らないところで誰かに先を越されると思ったら居ても立っても居られなくてさ!」
回り始めた舌がなめらかになってきたのか、だんだんと言葉に熱がこもってくるのがわかる。
「……だからさ、……俺と、つ、付き合ってくれないか?」
「マジで言ってる?」
「マ、マジもマジッ、大マジだよ!」
「ええ……、それは、ちょっと困る、かな……」
「じ、じゃあさっ! 付き合ってくれなくてもいいから、絶対に誰のものにもならないって約束してくれよ!」
必死に食い下がってくる三原の表情は、これまで親友として過ごした中学三年間でも初めて目にするくらい真剣そのものだった。
「なんでそんな約束を――」
「お前が他の男に抱かれてるなんて想像するだけで胸が張り裂けそうになるんだよ!」
「なんて想像してんのっ!?」
おとなしく聞いてれば血走らせた目で何を気持ち悪いこと言い始めてんの!?
「わかってくれよ! 本気なんだよ!」
「本気だからこそタチが悪いよ!? そんな趣味ないってずっと言ってきたし、いままでだって他のやつからの告白を何度も阻止してくれてたじゃん!?」
これまでにも告白されそうになるたび、そんな独特な雰囲気を誰よりも早く敏感に感じ取った三原は、咄嗟に話を逸らしたり場所を移動しようと連れ出したりしてくれて幾度となく守ってくれていた。
だからこそ、中学に入ってから一番の親友だと思っていた。
「それは誰にも抜け駆けさせないためだ!」
「……親友、でしょ?」
幾ばくかの願うような気持ちを抱いて問いかける。嘘だと言ってよ、三原……。
「ああ、もちろん。でも、今からは恋人になってくれないか?」
「なれるわけないだろっ!! よぉーく見てよ!! ボクをっ!!」
絶叫にも似た声を張り上げ三原の腕を掴んで縋り付くみたいにぐいぐい引っ張る。
今ならまだ、なんちゃってー! ドッキリでしたー! とか言っておどけて見せてくれれば戻ってこれるよ? 完全に道を踏み外す前に正気を取り戻してよ……!
そんな願いもむなしく、不意に急接近したお互いの顔と顔に、三原はついっと目を背けてしまう。その横顔は背けられてさえはっきりわかるほどに真っ赤に染め上げられていた。
ほんのわずかに抱いていた、笑えないドッキリの可能性という希望は完全に潰えた。
掴んでいた三原の腕を力無くゆるゆると放し視線を落とす。
ダメだ、手遅れだった……。
――ああ、それはそうと違和感を覚えたかな? 違和感しかなかったよね?
うっかりしてて状況の説明がまだだったもんね。とはいっても、そんな難しい話じゃない。
簡単に説明すると、告白に臨んでいた三原は、中学時代の三年間ずっと仲良くして一番の親友だとばっかり思ってた同級生。
そして、予想していたとはいえマジ告白されて、小動物みたいにふるふる震えながらジッと足下に視線を落としているのがボク。
そう、ボク、だ。
男のボクが男の親友に告白されていたんだ。
三原の名誉のためってわけでもないけど、この告白にはもちろん致し方ないちゃんとした理由がある。いや、理由というよりは原因があるんだ。
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