【完結済み】 俺たちは異世界行っても変わらない!

せんぽー

第1話 召喚されたのは残念ながら俺たちでした

 俺、石楠花しゃくなげまさきはシスコンである。


 姉のために動き、姉のために生き、自分の全てを姉に捧げるつもりで今の今まで生きてきた。


「………………姉さん、嘘だろ? 冗談だろ?」

「嘘でも冗談でもないわ。私、ずっと付き合ってた彼氏と結婚するの」


 突然のことだった。姉が結婚するという衝撃の事件。まさか姉に想い人がいたとは………全く知らなかった。


 いつの間に付き合っていたのだろう。

 教えてほしかったよ………。


「彼ね、とってもいい人でね、面白い人なの。一緒にいて楽しいの」


 ショックを受けたのと同時に、姉は彼のことを話している時が一番笑顔が綺麗だと知った。会ったことない姉の彼氏に勝手に敗北感を感じていた。


 姉さんがこんなに笑ってくれているんだ。彼氏さんは素敵な人なんだろうな…………泣くな、俺。盛大に祝おうじゃないか。


 姉さんの結婚を全力で祝福しようと決めた俺はウェディングケーキを作ることにした。もちろん3段ケーキだ。姉さんの結婚式なんだ、当たり前だろう? 


 キッチンでウェディングケーキの試作をしながら、カウンター越しに見えるリビングに目を向ける。そこで遊んでいたのは4人の男女。


 彼らは俺の幼馴染………残念ながら切っても切れない腐れ縁だ。放課後はいつも4人が俺んちに入り浸っている。日常的な光景。


「――――悪魔召喚には水と鳥取砂丘の砂を用意しないといけないの。鳥取砂丘の砂はこれね。綺麗でしょ………で、水ね。水は普通のでいいみたい。ただ水の中に自分たちの唾を入れないといけないから………ペッ、こうして自分の唾を入れる」

「なるほど」

「へぇー」

「変わった召喚術だね」

「でしょー? 『私もこんなのでできるの?』って思ったんだけど、成功させてる人がいるみたいのよ………あ、それで次が魔法陣ね。床にこの砂で描くの……絶対に私に触らないでよ。ずれるから」


 そう言って、生き生きとした表情でフローリングの床に粉で魔法陣を描く金髪二つ結びの少女。彼女は雪柳れんげ――俺の腐れ縁その1だった。


 笑顔はとっても愛らしいが、何をしでかすか分からないトラブルメーカー。俺はほぼこいつの子守りをしていると言ってもおかしくはない。


 リビングに砂をバラまかれるのはマジで面倒。

 仕事を増やすな。

 どうせお前は掃除しないだろうが。


 俺は生クリームを泡立てていた手を止め、背後かられんげの頭にチョップ。


「ったぁ! 何すんのよ! ああ! 柾のせいでずれたじゃない! 書き直しじゃないの!」

「『書き直しじゃないの!』じゃない! リビングを汚すな! どうせ俺が掃除しないといけないだろ! あと、なんで悪魔召喚に鳥取砂丘の砂なんだよ!」


 鬼の召喚ならまだ鳥取……というか日本の砂でもいいと思うが、悪魔召喚なんだから、せめて海外の砂にしろよ。

 

「え、ネットに書いてあったから? ああ、砂はちゃんとお土産店で買ったわよ。盗んでないわよ。自然公園法は守ってるわよ?」

「そこを心配しているんじゃねぇよ。なんで西洋の悪魔召喚に“鳥取”の砂なんだよ…………いや、これもちげーわ。なんで俺んちのリビングで悪魔召喚にしようとしてるんだよ、バカなのかよ」

「柾、アタシはバカじゃないわ。この前の中間は学年で2位だったのよ? あ、唾は人数が多いだけいいから、多いほど成功率は上がるみたいだから、みんな自分の唾この水の中に入れて、柾もよ」


 はぁ………。

 また、れんげの暴走が始まったか…………。


「なぁ、止めてくれよ、ていか。お前は比較的まともな人間だろ?」

「いや………れんげのすることは私にとって最高の娯楽………止めるなんてもったいない」


 俺のお願いに首を横に振る紺色髪の少女。足を組み、ソファに座る姿すら、凛々しさと美しさを感じる。

 

 きっとドM男子なら、ゾクゾクしてしまうだろう。そんなクール美少女の彼女の名前は花王ていか――腐れ縁その2だ。


 でも、俺はていかを見ても、ちっともゾクゾクもしないし、逆にヒヤヒヤするんだよな。まぁ、今は落ち着いてるから、警戒することは何もないが……。


「僕も姉さんと同じ意見だね。れんげちゃんのすることは面白いと思うよ。失敗するところも含めてね。頑張るれんげちゃん見てるよ、こっちも元気になれるよね」


 ていかの意見に笑顔で同意する白髪美形男子。彼はていかの双子の弟、花王香雪こうせつ。幼馴染3号機。クソイケメンなせいで学校では何かとモテる男だ。ムカつく。

 

「えー! 失敗するって言った? まさか香雪、今回も私のこと信じてないの!?」

「うーん、あんまり信じてない、かな? 失敗そうな感じがするよ」

「ボクも。れんげ姉、いつも失敗ばかりしてるから、今回も悪魔は召喚できないと思うね。この前の妖精召喚も失敗したし」


 香雪の隣でパソコンをつついている黒短髪の小学生。彼は雪柳紫藤―――そう。変人れんげの実の弟。顔は似ているものの、性格は全く異なる。現在小学5年生のくせに、口は誰よりも回り、頭が切れる、生意気小学生だ。


 だが、この中では最もまともな方だろう。変な条件をつけられるとはいえ、3人の暴走を止める時は助けてもらうことはあるしな。


「一応アドバイスとして言うけど………れんげ姉、そのままだと本当に失敗するよ」

「むむぅ…………じゃあ、どうしたらいいって言うのよ。私はサイトに書いてあった通りにしてるだけなのよ?」

「うーん、そうだね………」


 紫藤はタイピングしていた手を止め、立ち上がると、机に置いていた鳥取砂丘の砂を手に取り。


「ここをちょっと書き足すかな」


 付け足し始めた。正直俺には何を書いているのかさっぱり分からなかったが、紫藤には魔法う人が読めているようだった。こわっ。


「え、そこ変えるの? 悪魔世界に繋がる道できなくない?」

「さっきのだと道が安定していない。悪魔を呼んだとしても、来れないよ」


 ん?

 悪魔世界が何だって? 

 道が何だって? 

 この2人、まさか悪魔本当に召喚しようとしてるのか?


「でもそれだと、道はできないわよ」

「ここで道を再構築して、繋げればいけるよ」

「あー、なるほどね。それなら安定するし道もそれなりに大きなものを作れるわね。さすが、我が弟ね」

「どーもー」


 ………………いや、分からん。

 こいつらの話していること何一つ理解できん。

 さっぱりだ。


 ………………まぁ、ずる賢い紫藤のことだ。れんげを使って暇つぶしに遊んでいるだけかもしれない。


「あ、おいし」


 いつの間にか懐にやってきていたれんげ。俺が持っていた生クリームのボールに手を突っ込み、クリームを一すくい。ぱくっと口を入れていた。


「おい。食べるな。これは全部姉さんのためなんだぞ」

「…………うわぁ、重度シスコンきも」

「黙れ、筋肉バカ」


 反論すると、静かに睨むていか。シスコンは認めるが、キモいと言うのは許さない。姉さんを愛することがキモいなんて言われたくない。特に筋肉のことしか頭にないやつには。


「さぁ、悪魔を召喚するわよ! 柾はこのコップを持って真ん中に立って」


 クリームのボールを抱えたまま、片手にコップを持たされ、押されるままに移動させられる。そして、魔法陣のど真ん中に立たされた。


「はぁ…………」


 ま、どうせ失敗するし、いっか。

 ちょっと付き合えば、れんげも飽きてくれるだろう。


「柾くんはこれから生贄になってもらいます」

「あー、そうですか」


 そう。物騒なことを言われても、適当に聞き流していれば………。

 れんげが俺の前に立ち、手のひらを合わせてポーズを取る。

 

「じゃあ、始めるよ! ――――ユンクティオー!」


 その瞬間、部屋に起こるはずのない風が地面から吹き、髪が大きくなびく。


「――――は?」


 何も起こらないと思っていた。

 いつのようにれんげが叫ぶだけで、何も起こらず失敗………のはずだった。

 

 コップの水が光ってる………。


 幻を見ていたのかと思い、瞬きをするが、景色は変わらず……コップの水は白く光ったまま。コップの中を見つめていると、光がおさまり代わりに水面に街の景色が映し出される。街は日本らしくなく、どちらかというと西洋らしい街並みだった。


 今までになかった怪奇現象。れんげはこれまでにも悪魔召喚だけでなく妖精召喚や、幽霊召喚、色んなことに挑戦してきた。その度に失敗。何も起こることはなかった。部屋が汚くなるだけだった。


 でも、俺たちの唾入り水が光ったよな? 

 水面に知らない街が見えたよな?


「おいおい、嘘だろ………」


 まさか本当に成功されてしまうのか?


 ………………。

 ………………待て。

 れんげ、さっきなんつってた………………?


 ――――――――俺を“生贄”にするなんて言ってなかったか?


「おい、ふざけんなッ!! なんで俺が生贄に――」


 魔法陣から離れようとした瞬間、コップに入っていた水が揺れ、眩しい白の光を放ち始める。床に描いた魔法陣も光始める。


 こんなバカ幼馴染の悪魔召喚で生贄なって死にました、なんて終わり方嫌だ! 嫌すぎる! ダサすぎる! 葬式で俺の死に方で親戚たちの話題になるとか嫌だ! 姉さんに会えずに死ぬとか嫌すぎる!


 だが、術式が止まる様子はなく、白の光が強くなっていく。


「あれ? 聞いたのと違う。光が全然黒くない」

「れんげ、もしかして:失敗?」

「そうかも。ごめーん★」

「ふざけんなァ――――ッ!!」


 そして、俺たちは光の中に包まれていった。




 ★★★★★★★★




「は?」


 さっきまでリビングにいたはずだった。なのに、目の前に広がっているのは見上げるほど高い天井、教会のような部屋。


 近くにいたれんげたちも何が何やら分からずポカーンと口を開けている。


「おおっ! 成功したぞ!」


 目の前で子どものようにはしゃぐおじさんども。それはいつかテレビで見た念願のロケット発射を成功させた研究員のおじさんたちのよう。


 なんだここは…………?

 あいつらは誰だ………?

 

 そう問う前に、1人のおじいちゃんが俺たちの前に立ち。


「勇者たちよ、君たちには厄災からこの国を守ってほしい」


 と言ってきた。

 勇者って誰のこと………って、めちゃくちゃじいさん俺たちを見てる。眩しいぐらいの希望の眼差しで見てる。


「なぁ、勇者って俺たちのこと?」

「他に誰がいるというのかね?」


 ………………うわ、マジか。

 俺ら、異世界転移させられた………しかも変な場所に。


 うーん、じいさんは俺たちに厄災から守ってほしいって頼んできてる…………めちゃくちゃ熱い目で…………。


「いや、俺今から姉さんのウエディングケーキを作らないといけないんで……すみません、他を当たってください。あ、ちなみに家にはどうやって帰れます? 異世界でもさすがに走ったら帰れますよね? 俺、急いでるんで」

「アタシ、妖精さんに会いに行ってくるわ!」

「……おぉ、筋肉! 筋肉だ! この世界、筋肉マッチョの臭いがする!」

「ボクは魔王に会ってくるので、要件は後でお願いします。チャオ~」

「はくさい? なるほど! 僕たち、お野菜さんから国を守ればいいんですね! 了解しました!」


 そうして、俺たちは散らばるように走り出した。





 ★★★★★★★★


 久しぶりの男主人公! シスコン限界突破主人公ですっ! 次話もよろしくお願いします!

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