命の時間差

箕田 はる

1


 車窓を流れる景色が二回目になった。山手線二週目。五十九分三十秒。開始駅である鶯谷のホームが遠ざかっていく。

「ずっとここにいるつもり?」

 僕の問いかけに、目の前のサラリーマンが顔を上げた。僕は声を潜めてもう一度、「早く降りようよ」と隣に座る少年の顔を見た。

 彼はまだ高校生だというのに、髪を明るい茶色に染め、耳にはシルバーのピアスが二つ付いている。眉間には不機嫌そうな皺を寄せ、腕と足を組んで背を持たれ掛けていた。

「時間の無駄だとは思わない? 時間というのは、有限なんだ。君だって、山手線を何周もして、終わらせるのは嫌だろう?」

 サラリーマンの不審そうな視線が、再び僕に向けられる。昼時の車内ということもあって、人が少ないから良かったものの、これで大勢の人が乗っていたりでもしたら――そう思うだけで、背筋がゾッとした。

「俺に構うなよ。お前にはかんけーねぇだろう」

 やっと発した彼の第一声はそれだった。

「関係なかったら、探しになんて来ないよ。親御さんも悲しむし、君自身にも関わってくることぐらい分かっているだろう?」

 電車が止まり、上野駅に着く。目の前に座っていたサラリーマンが立ち上がり、僕たちをチラリと見てから降りていった。

「せめて目的地ぐらい教えてくれないかな。僕も付き合うから」

 僕はスーツのポケットから懐中時計を取り出す。残り時間は四時間。僕は内心でため息を吐く。

 彼の帰りたくない、現実から目を背けたいという気持ちも分からなくはないけれど、逃げていても良い結果にはならないのは確かだ。

「別に付き合ってもらわなくたって良いし。お前が勝手についてきているだけだろ」

 この年頃の若者が厄介なことぐらい、経験で分かってはいた。けれど、これまた手強い相手なのは確かだ。

「そうだ。渋谷とかどう? 今の若い子は、渋谷でレインボーな綿飴を食べるらしいじゃん」

 以前に出会った中学生の女の子が、確かそんな事を言っていて、一緒に食べた記憶があった。一生分の綿飴を食べた気がして、僕はしばらく綿飴を目にすると吐き気がしていた。

 僕が提案すると、はぁ? という顔で彼が僕を睨め付ける。

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