第17話「レオン・ハイストン」
ニュアル・ウルム・ガルシャードからもたらされた情報によると
ダルウェイル国領エルムの森と接するウェルス王国側の国境にはウェルス王国軍の防衛ラインとなる3つの城塞がある。
それぞれ西の守り、中央の守り、東の守りと名付けられた城塞は、エルムの森攻略を任されたレオン・ハイストンを師団長とするレオン部隊が守っている。
城塞は本隊のある砦につながる街道を塞ぐ形でレンガと木でできた門構えとなっていてそこから東西に伸びた壁が3つの城塞を結んでいる。
詠凛学園2年B組の生徒たちが、当初からの目的としている砦を奪取するためには、はじめにこの3つの城塞を突破しないといけない。
生徒たちはミーティング棟に集まり、陽宝院を中心に地図を囲んで作戦を練った。
「どの班が先に城塞を落とせるか勝負しようぜ」
生徒のひとりが発したこの発言をきっかけに戦闘系の生徒たちを中心に6人づつ3つの班を作って、競い合う形で3つの城塞を同時に攻撃することが決まった。
ゲーム感覚で挑む城塞攻めに生徒たちの高揚感も高まる。
作戦を実行する上での懸念材料もない。
ニュアルの情報によればこの異世界には鉄砲はまだ存在していない。ましてや生徒たちのように異能の力や魔法を使える人間もいないということだ。
異世界にやってきて備わった紋章のチート能力をいかんなく発揮すれば敵う相手などいない。
「ウェルス王国のヤツらを震え上がらせようぜ」と、生徒たちの作戦会議はまるで学園祭の準備をするかのごとく盛り上がる。
***
この日、ついにウェルス王国との戦争がはじまった。
各城塞100人以上の兵士たちが城塞を落とさせまいと必死に抵抗する。
兵士たちにとって生徒たちのチート能力は未知の力。
渦を巻いた炎が生き物のように暴れて兵士たちに襲いかかる。
今度は吹きつけてくる突風が鎧ごと全身を切り刻み、地面から生えてきた土壁によって全身を挟まれた兵士たちは断末魔の叫びをあげながら絶命してゆく。
ダルウェイル国軍が難攻不落と恐れたウェルス王国の鉄壁の城塞も1時間もしないうちに西の守りが陥落した。
それから間も無くして中央の守りも落ちた。
ルイール・アルマンは、残る東の守りは絶対に落とさせないと自らが率いるアルマン隊を鼓舞して必死の抵抗を続けている。
東の守りを攻めている班は、アタッカー担当の稲葉新太郎(いなば しんたろう)、佐伯克朝(さえき かつとも)、阿久津誠(あくつ まこと)、
乾すずの(いぬい すずの)、防御担当の田宮理香、ヒーラー担当の石動エミル(いするぎ えみる)で構成されている。
「俺たちの班が最後か」と、稲葉は悔しさをぶつけるように向かってくる兵士たちを剣で斬ってゆく。
一方、佐伯は操ったサイ型のモンスターを城塞の門の扉に繰り返しタックルさせて破壊を試みている。
佐伯の能力は動物やモンスターを洗脳して意のままに操ることができる。
佐伯に操られたモンスターには額に紋章が浮かび上がる。
***
門の向こう側では、ルイール・アルマンとルクス・ネルムが思わしくない戦況に焦りを滲ませている。
そこへ「シスト・ヴィラム様、お討ち死に!」と、伝令兵の知らせが届く。
2人に衝撃が走る。
シスト・ヴィラムは稲葉によって首を跳ね飛ばされた。
城塞の門の扉がミシミシと音を立てる。
ついに限界を迎えた門の扉は破れて、堰(せき)を切ったようにサイ型のモンスターが雪崩れ込んでくる。
おののくルイールの脇を物体が凄まじいスピードで横切る。
見上げると隣に立っていたはずのルクスを上半身まで飲み込んだ翼竜が上空を旋回している。
「うあああああ!」
悲鳴をあげるルイールは兵士たちを押しのけ、その場から逃げ出す。
***
レオン・ハイストンも防戦一方の戦況に手をこまねいているわけではなさそうだ。
周囲の部下たちからはむしろこの状況を楽しんでいるように見えている。
「本当にアルマン殿の部隊に援軍を出さなくてよろしいのでしょうか?」
ゼスル・シャルホンスの心配をよそにレオンは砦周辺の地図を食い入るように眺めている。
「伝令の報告によると敵方は守りを落としてもなお、力の限り暴れ回っているとのことです。
繰り広げられている光景は到底、戦(いくさ)などでと呼べるものではなく、もはや殺戮だと」
「やはりそうか。そうだよな。明らかに戦(いくさ)を知る者の戦い方じゃない。獣と同じだ。相手はやはり魔物」
レオンの表情は笑顔に満ちる。
ゼスルは危機が迫る軍の将とは思えないレオンのテンションの高さに呆気に取られる。
***
城塞を攻略し、勢いに乗る生徒たちは佐伯が操るモンスターの群れを伴い
馬に乗って逃げるルイールを追いかける。
ルイールが、生徒たちが目標とする砦に逃げ込むと、正門の扉は開いたまま。
生徒たちは勘ぐることなく砦へ攻め込む。
***
生徒たちが砦の中に入ると、そこは四方が塀に囲まれた広間。
正面にはさらに奥へとつづくための門がある。
すると門上部の櫓にレオンが姿を表す。
「ちょっとなにあのイケメン⁉︎」
金髪に碧眼、顔立ちの整ったレオンに女子生徒たちがざわつきだす。
レオンは爽やかな笑顔を生徒たちに向けたまま、眼前まであげた右手をスッと横に降る。
その瞬間、阿久津は左腕に違和感を覚える。
見やると弓矢が左腕を貫いていた。
「ぎゃあああ!」
阿久津は悲鳴をあげてその場に倒れこんだ。
生徒たちが倒れた阿久津に注意が向くと。
生徒たちの四方と頭上から一斉に弓矢が飛んでくる。
「しまった!」
罠と気づいた東坂は「頼む、田宮!」と、理香に指示する。
「シールド!」
理香は両手を翳して手のひらに緑色の光が宿るもすぐに砕けてしまう。
本来なら広範囲の防御シールド展開されるはず。だけど理香が何度も
「シールド! シールド!」と、叫ぶも光っては砕けるを繰り返すばかり。
ついには弓矢の雨が生徒たちを直撃する。
ヒーリング能力のあるエミルが、負傷した生徒に「ヒール!ヒール!」と、
能力を使おうとするが理香のように光っては砕けるを繰り返すばかりで発動しない。
他のヒーリング能力がある生徒たちも同様だ。
東坂が、再び櫓を見やるとレオンの姿はない。
***
レオンが櫓から降りて来ると、ルイールがレオンに合わせる顔がないのか俯いたまま地面に座っている。
威勢を失い「笑いたければ、笑へ」と、消沈するルイールをレオンは気にかけることなく、控えている騎馬隊の方へと歩いてゆく。
レオンのこれまでの爽やかな表情が一転して力強い目つきへと変わる。
「よく聞け! 敵は王国に尽くしてきたリコルス殿たちを殺した! ここを死守せねば、次は民が殺される。貴様たちの家族や友人だ!
今こそ誇り高きウェルス王国騎士の戦いを見せるときだ!魔物どもを震え上がらせろ!」
「オーッ!」と、力強く声を上げる兵士たち。
レオンの豹変にルイールは思わず顔を上げる。
レオンはルイールに檄を飛ばす。
「何を呆けている! 今が勝機だ。ゆけー!」
騎馬隊の軍勢が勢いよく門を飛び出す。
レオンたちの反撃がはじまる。
つづく
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