第6話「ウォーリアー」

私、東堂あかね、東坂慎次君の3人とムルグのおじいさんが森を抜けてたどり着いたのは道の駅。

たくさんの荷馬車が駐車している光景には圧倒される。

吐く息はまだ白く、朝陽は昇り始めたばかりなのに、荷物の載せ替えを急ぐ商人や

朝飲む一杯を片手に談笑している商人たちで活気付いている。

見渡せば、荷馬車のほとんどが、白い幌(ほろ)に家紋のような同じマークを入れている。

気づけば商人たちが積み降ろしている荷箱にもそのマークが入っている。

ムルグのおじいさんは、知り合いを見つけたのか、荷馬車の傍らに座ってコーヒーを飲んでいる白ヒゲのおじさんに声をかける。

「グスタール、久しぶりだな。元気してたか!」

「おお!ムルグの旦那。見ての通りだ。旦那も生きてたんだな」

ムルグのおじいさんは旧友との再会に嬉しそうだ。

「グスタール。馴染みの油売りだ」と、白ヒゲのおじさんを私たちに紹介してくれた。

「今や何かと物騒だ。荷物を運ぶだけで容易じゃない。ワシは護衛に金を払った。いいカモにされてると分かっていてもな。グスタール、お前のところは結局どうした? 」

「それなんだが⋯⋯」

グスタールさんは、表情を曇らせる。

ムルグのおじいさんは、グスタールさんの背後に積まれている荷箱に目をやると、周囲の荷馬車と同じマークがついている。

「グスタール、お前⋯⋯エルドリック商会と」

「すまねぇ⋯⋯」

グスタールさんは、ムルグのおじいさんから顔を背ける。

「お前さんとこの大事な油をどうした? 権利をやつらに売り渡したのか?」

「こうするしかなかった。エルドリック商会は免税書を持っている。契約すれば警護まで付けてくれるというんだ。仕方ない。

それにこのマークがついていれば盗賊に襲われることはない」

「⋯⋯」

ムルグのおじいさんは、諦めたような寂しい表情を浮かべる。

「そうか⋯⋯」

「なぁ、じいさんたち教えてくれ。エルドリック商会はいったいなんなんだ?何を恐れてる」

東坂君が私たちの疑問をぶつける。

ムルグのおじいさんとグスタールさんは口を紡いだ。

「俺たちの仲間に肥後ってのがいる。そいつに掛け合ってみるよ。そうすれば少しはマシに⋯⋯」

ムルグのおじいさんはハッとした顔をする。

「もういい! お前たちもやつらの仲間だ!ワシに近づかないでくれ、ここまでだ。あとはひとりで帰れる」

ムルグのおじいさんは、肩を怒らせ私たちの目の前から去っていった。

ため息をつくグスタールさんに東坂君は尋ねる。

「なぁ、グスタールさん。この辺りの国境地帯は、トゥワリスの戦争で治安が悪くなったから盗賊が出るようになったわけじゃないんだろ? エルドリック商会が傘下を増やすために、族を雇って

このマークを目印に、マークの無い荷馬車を襲わせている。それでも傘下に入らない商人には高いを護衛代を取って稼いでいる。そうだろ?」

「ああ。エルドリック商会を通さないと、俺たちトゥワリス国の商人はもう商売できねぇ⋯⋯」

風が吹くとともに葉賀雲 影家(はがくも かげいえ)君が荷馬車の上から姿をあらわした。

「アジトを見つけた」

「よし。あとは盗賊たちに話を聞いてみるか」


***

盗賊のアジトがある森へ行くため、私たち4人は貨物コンテナのような大型の木箱が積まれたエリアを通る。

すると突然、目の前の木箱が吹き飛んで私たちの行く手を塞いだ。

「なんだ。あんたたちだったの」と、女の声。

声の方へ振り向くとゴスロリの格好をした女の子が立っている。

見知った顔との遭遇に私たちは驚いた。

「紫芝⁉︎」

「さやかちゃん!」

「さやか!どうしてあんたがここに?」

彼女は、クラスメイトの紫芝(ししば)さやかさん。

「クライアントに頼まれたのさ。自分たちを襲ってきた輩がいるから退治してくれって」

すると若い男たちがやってくる。

「こいつらです! 昨日、アニキたちを痛めつけた青い服の奴ら」

「へー、東坂たちが」

と、若い男たちの間から割って出てきたのは、クラスメイトの桂匠(かつら たくみ)君と内海はじめ君

「お前たち⁉︎ なんでこいつらと一緒にいるんだ?」

「俺たちの依頼主なんでね」と、桂君がニヤリとした顔で答える。

「この人たち荷馬車を警護する自警団やってて、怪我させられたっていうからさ。つまり用心棒ってわけ」

と、今度は内海君が無邪気な態度で答える。

この場を楽しんでいるような2人に違和感を覚える。

「そいつらは盗賊だ! 騙されるな」

「それで」

そういって彼女はひろげた両手に黒い棘鞭を出現させて、私たちに向かってその鞭を振るう。

地面をえぐるように這って迫ってくる鞭。

東坂君とあかねはジャンプしてかわす。

私は葉賀雲君に抱えられながら、高く宙を飛んだ。

「おいよせ! 仲間だろ」

「さやかちゃん、やめて!」

「私たちはウォーリアー。雇われればどこの戦場でも戦う傭兵。依頼主がどんなやつらだろうと関係ない。雇われたら誰とだって戦うわ」

「傭兵⁉︎ どうしてお前たちがそんなことやっているんだ!」

「せっかく手に入れたチート能力を持て余してても仕方ないでしょ。戦場を渡り歩けば、思う存分に力が使えるじゃない」

「だからって、俺たちに攻撃することはないだろ。事情を聞いてくれ」

「そうだよ。さやかちゃん」

「あら、よく見たら戦えない役立たずがひとり紛れているじゃない」

「さやか!天音に何を。謝りなさい!」

「事実を言って何が悪いの?」

「天音を傷つけるな!」

「傷つける? 笑わせないで。この子がどれだけ無自覚に人を傷つけてきたと思うの。成績優秀。スポーツ万能。みんなの憧れ月野木天音。無様ね⋯⋯

どう? 私たち底辺の気持ちは。私はこの力を手に入れてようやく分かった。あんたが随分と高いところから見下ろしてたんだってね」

紫芝さやかの脳裏に過去の出来事がよみがえる。


***

クラス対抗球技大会ーー

生まれつき体が弱くて運動ができなかった。

私は体育館の隅でひざを抱えていた。

そこへ隣のクラスの中学時代の私を知る女子生徒たち3人がやってきた。

「あれ紫芝じゃん。見学?」

「ってことは何? あんたのクラス勝ちじゃん」

「あんたいると、負けちゃうもんね」

「あんときは本当邪魔だったよね」

「そうそう。こうやって見学しててくれれば。私たちのチーム優勝だったのに」

「今の紫芝のクラスいいなぁ〜」

彼女たちが過去のことを引き合いに私を笑っていると、

「ちょっとごめんね」と、彼女たちを割って月野木天音がやってきた。

「さやかちゃん。次は私たちのチームの番だよ」

そういって私の手をひっぱって、私をそこから連れ出した。


***

バレーの試合、私はピッチに立った。

試合がはじまると、私は茫然と立ってるだけでよかった。

月野木天音はひとりで得点を稼いで、ひとりで防いだ。

彼女はとても輝いて見えた。周りの声援も拍手もみんな彼女に送られる。

と、同時に私は居ても居なくても同じだという感情が去来する。

この世界は不公平だ。私にはすべてが無い。だけどすべてがある子もいる⋯⋯


***

「見せつけてくれたわね。月野木天音。あのときの私の屈辱味あわせてあげる」

彼女が鞭で軽く地面をはたいた瞬間、私の制服の右肩が破れて血が流れる。

痛い⋯⋯私は痛みに顔を歪ませる。

見えなかった。彼女の攻撃が。私と彼女距離は十数メートルあるというのに⋯⋯

「この世界に来て私は生まれ変わった。今の私はクラスでも5本の指に入る強さよ。気持ちいいものね。持ってるって。今じゃこうして取り巻きもいる」

桂君と内海君がヘラヘラと笑う。

「再生能力はあるようね。どっちにしろ自分しか守れない自己中能力ね」

私の右肩の傷は徐々に回復してきている。自己中能力⋯⋯その言葉は私に鋭く突き刺さった。

「さやか! 天音をこれ以上、馬鹿にするな」

あかねは氷で剣を作り出して、さやかちゃんに向かっていく。

「私は人に散々馬鹿にされてきわ。だけど私を馬鹿にしたところで誰も罪悪感を感じない。まるであたりまえのことのよう。

そうやって東堂さんのように怒る人もいないわ。やっぱりムカつくわね。月野木天音。力を失ったら失ったで今度は悲劇のヒロイン。自分からは何もしようとしなくてもいい。

庇ってくれる取り巻きがいるから」

地面から突然、刃物のように鋭利な岩が5本、突き出してきてあかねの前後左右股下から、あかねの全身を絡めとるように挟み込む。

地形操作による岩の錬成は内海君の得意能力だ。

「東堂。微動だにすればお前の大事な肌に傷が付くぜ」

制服が裂けてあかねの肌が触れている部分から血が流れている。

「いやぁ⋯⋯」

「なんだ。東堂もかわいい声、出せんじゃねぇかよ」

股下から伸びる岩が、スカート割いて鋭利な稜線をあかねに喰い込ませる。股下からくる圧迫があかねの身動きを制限する。

顔を赤くして悶えるあかねの姿に「感じてんのかよ。こいつ」と、桂君はケタケタと笑う。

「桂、内海!」と、東坂君と葉賀雲君が2人をはさみ打つようにジャンプして剣とクナイで斬りかかる。

だが、桂君が右手を翳すと2人は大型の木箱に叩きつけられる。

桂君の得意能力は重力操作。

あとは内海君が錬成した鋭利な岩を重力操作で叩きつけて、東坂君と葉賀雲君を磔にする。

「さぁ、月野木天音。あとはあんただけ。私が一生動けない身体にしてあげる」

彼女はそう言って棘鞭を頭上でグルグル回し始める。

そして棘鞭は円を描きブラックホールのような黒い渦を生み出した。

彼女は闇属性の能力を得意としている。

彼女が棘鞭を振り払うと放たれた黒い渦がフリスビーのようにして私に向かって飛んでくる。

直撃するーー

そう思った瞬間、岩が目の前に落ちてきて、私を守るようにして壁を作った。

「え⋯⋯」

このとき何が起きたのか一瞬分からなかった。

岩に当たった黒い渦は進路がずれて、近くの森に直撃して土砂を崩した。

「チッ運のいいヤツめ」

桂君が東坂君に投げつけた岩の一部が、刺さった木箱からとれて落ちてきたようだ。

すると道の駅の方から激しい爆発音と炎が上がる。

「なにごと⁉︎」と、さやかちゃんたちは振り向く。

大量のミサイルが次々に落下して、駐車していた荷馬車は火の海に包まれた。

商人たちは慌てて逃げ惑う。

「パトリオット⁉︎ まさか現代兵器がなんで飛んで来てるのよ」

見やると黒い煙の向こうからやってくるひとつの人影がある。

煙の中から出てきたのは日本刀を手にした右条晴人(うじょう はると)君だ。

「あんた右条⁉︎ なんでここに」

一瞬だった。一陣の風のように紫芝さやかの脇を過ぎ去り、目の前に現れたと思ったら

日本刀を私の背後の岩に突き立て、私に顔をグッと近づけた。

な、なにこれ、か、壁ドス⋯⋯


つづく










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