第25話

気分がいいまま翌日になっていた。



3人は昨日病院で精密検査を受けてなんの異常もなかったようで、すでに登校してきていた。



3人が教室にいるのを見たときつい身構えてしまったが、昨日のことがあったせいか誰も私にちょっかいを出しては来なかった。



「おはよう井村さん」



「お、おはよう」



声をかけてくれる黒坂くんに照れながら挨拶を返す。



こんな風に胸がときめく人に出会えるなんて、未だに信じられない。



イジメのターゲットになった時点で私の学生生活は真っ黒に塗りつぶされていたとおもっていたのに。



それもこれもあのアプリのおかげだ。



どうしてだか突然ダウンロードされていたアプリはきっと流れ星様からのプレゼントだったんだ。



空の上にいる流れ星はずっと私のことを見ていてくれたのかもしれないなんて、本気で思い始めていた。



この日も私は黒坂くんに教科書を見せてあげたり、学校行事について教えて上げたりして、多美子のことも紹介することができた。



それでも時々後ろを振り向いて3人を確認する。



3人共すごくおとなしくて、いつもの笑い声は聞こえてこない。



平和を満喫しながらもどこか物足りなさを感じてしまう。



だってこのままじゃ3人への復讐ができないから。



あのアプリを使うためにはまずは自分がなにか体験しないといけないのだから。



だから私は休憩時間を使って3人に近づいた。



「なによ」



真純が私を睨みつける。



その顔は相変わらず怖かったけれど、もう背筋が寒くなるようなことはなかった。



「大丈夫だった?」



首をかしげて質問すると見事に無視されてしまった。



だけど私はおかまいなしに話を続ける。



「昨日は本当にびっくりしたよ。こんなことがあったんだもんね」



大げさリアクションと大きな声でそう言い、私はスマホを3人の前にかざした。



画面には昨日録画したあの映像が映し出されている。



3人が泣きじゃくりながらチョークを口運んでいて、何度見てもそれは笑えた。



「なんだよこれ!」



途端に由希が怒鳴った。



勢いよく立ち上がって机をけとばす。



教室内に黒坂くんがいることなんてすっかり忘れてしまっているようで、顔は怒りで真っ赤に染まっている。



「動画撮ってたとか最低」



夕里子にそう言われたが、それは心外だった。



あの異様な状況を説明するために動画は必要なものだった。



先生たちにも咎められることはなかったんだし。



私はわざと動画の音量を最大にして、更に含み笑いを浮かべて3人の反応を楽しんだ。



由希も夕里子ものぼせたように顔が真っ赤だ。



1人だけ真純は冷静な表情をしていたが、勢いよく立ち上がったかと思うと私の頬を殴りつけていた。



それはとんでもない強さで私の体は少し吹き飛ばされて後ろにあった机ごと倒れ込んでいた。



大きな音が教室中に響き渡り、数人の女子生徒たちから悲鳴が上がった。



真純のパンチは由希たちの比ではなく、口の中が切れて血の味がしてきた。



ビリビリと痛む頬を抑えながら私は笑いだしてしまいそうなのを必死で我慢した。



あ~あ、やっちゃったね。



これがそっくりそのまま自分に戻ってくるなんて、考えてもいないんだもんね。



「ナメてんじゃねぇぞ有紗のくせに!」



真純が私の胸ぐらを掴んで無理やり立たせる。



私はやられるがままの人形みたいに、力が出なかった。



それほど真純に殴られた衝撃は強かったのだ。



「やめろ!!」



太一の声が聞こえてきて軽く舌打ちをしそうになったとき、太一よりも先に黒坂くんがかけつけていた。



「やめろよ」



真純の手を掴み、静かな声で言う。



それはとても小さな声だったのにすごみがあり、真純はゆっくりと私から手を離した。



黒坂くんを前にして他の2人もなにも言えなくなってしまっていた。



「保健室に行こう」



黒坂くんい言われて私は頷く。



教室から出る寸前に後ろを振り返り、3人へむけてほくそ笑んで見せたのだった。

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