月の子供
獅子堂まあと
◆Prologue
それは、偉大な王エヴニシエンが、西の海に、闇に包まれた新大陸を発見する、たった三百年ほど昔のことでした。
長すぎる?
いいえ、それは人の記憶から薄れ行くには、あまりにも短い年月です。
人ひとりの命はあまりに短い、長く生きてもせいぜい百といくらか。けれど人の血の流れは、それからさらに何百年も、親から子へと、語る言葉や記憶とともに、受け継がれてゆくでしょう。
夜空をご覧下さい、月の光はしらしらと、今も変わらず白く降り注いで、あなたがたの目にも、紡がれた銀の織り糸を垂らしています。
その糸は、いまから私の語る、ずっと以前の時代から、月に住む乙女たちが織り続けているものです。物語の縦糸です。
人は地上で縦糸を受け、自らの命で横糸を、一生かけて織り込んでゆきます。
いずこの海にありても、いずこの大地にありても、人の目に映る月は、ただ一つ。天を巡りて、魂の声を紡ぎます。
さあ、お聞きください。目を閉じて。ただ心の目だけを開いて。
歌人マルヴィーナよ、竪琴をおとりください。言葉は風、口から出でて、駆け去るように消えてゆく。貴女は歌い続けてください、そよ風の途切れぬように。
これは、とある島での物語。イオナと呼ばれた、過去と未来のいつの時代にも存在しない国の”マビノーギ”。
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