第049話 三つの力

「して、我らが神。我らを呼び出したのはどのようなご用向きで?」


 お坊さんの雰囲気をもつおじさんに話を切り出す。


「その前に皆に自己紹介してもらってもいいですか?」

「そうでしたな。私は元々住職をしておりましたが、たまたまWeb小説なるものに出会いまして、我らが神の作品と出会い、息子が優秀なもので早々に引退したものぐさ坊主の一休と申します。それからは神の信者として布教に尽力しております。以後お見知りおきを」


 まずはそのままの流れでスキンヘッドのおじさんに自己紹介をしてもらった。


 実はこの一休さん、住職として非常に有名でとっても偉い人だった、らしい。僕は宗教の地位などに関しては門外漢のため、詳しく知らないけど、日本の宗教界に絶大な権力を持つ人物だとか。


 ひょんなことから僕の小説を読むことになり、大ファンになってその地位を捨ててダンドリ教なるものを創始し、僕を神として崇め、同志を集い、今ではダンドリ教の教祖としても日本中に絶大な人気と権力を誇る。


 犬も歩けばダンドリ教に当たる、と言う程に成長した組織で、情報収集能力に長け、どんな情報もすぐ集めてくれる。


「次はワシか。私は元々軍人をしていたが、一休と同じく、我らの主上の小説と出会って感化され、退役して今は自発的に民衆を守る部隊を率いている相良だ。よろしくな」


 この相良さんも自衛隊でとっても偉かった人らしい。


 この人もなぜか僕の作品の大ファンになって仕事を止め、その地位を捨ててダンドリ防衛隊などという中二病も真っ青な民間の警備組織を作り、自身の同志を集め、一休さんとは別の意味で人気になった。


 体育会系のノリの武闘家の人間が多く集まり、日夜表向きは警備会社、裏では陰ながら日本の平和を守っている。ダンドリ教が情報収集を担当するなら、こっちは武力を担当する組織となっている。


「最後に私ですか?私は元々デザイナー兼経営者をやっておりましたが、他の二人と同じように私の王の作品と出会って、デザイナーの仕事は止め、神作の布教のため、グッズやその他の商品を全てを取り仕切らせてもらっております、柊と申します。以後よろしくお願いします」


 この柊さんは元々世界的に有名なデザイナーで、元々親から譲り受けた会社を、世界的にも名だたる企業へと成長させ、日本でもトップクラスの大企業となった会社の社長だ。


 僕の作品に出会い、これこそが自分が世界に広めるべきものだと認識し、それ以来僕と出版社とタッグを組んで、ダンドリをより効率的に世界に広めるには、という点を凄く考えてくれて、メディアミックスや商品展開を取り仕切ってくれている。


 経済界に物凄い力を持ち、彼女の声だけで億単位のお金が動くと言われている。他の二つの組織の財政面や経営面の補佐や、物資の調達などを担当している。


「皆ありがとう。僕の両隣に座っているのは従姉弟の夏美とクラスメイトの緋色。そしてさらに奥に座っているのは雫姉。彼女も僕の幼馴染だ」

「よろしくね」

「よろしくお願いするわ」

「よろしく」


 皆の自己紹介が終わると、こちら側の自己紹介も簡単に済ませた。


「なるほど。神の寵愛を受けた巫女たちですか」

「ほう。大将の愛する未来の奥方とは、皆美しいな」

「へぇ。我が王の将来の妃たちですか。これは捗りますね」


 僕の紹介に三人は夏美姉ちゃんたちを品定めするように観察している。しかし、その目はどれも好意的な感情が籠っていた。


 僕が仲良くしている相手だから最初から好感度が高いんだと思う。

 

「それで、今日呼んだ理由なんだけど、力を貸してほしい」

「それはもちろん構いませんが、私たちは何をすればよろしいんでしょうか?」


 そして本題を話し始めると、一休さんが具体的な話を尋ねる。


「一人の男が雫姉を脅して乱暴を働こうとした。僕が止めなければ酷い結果が待っていたはず。僕は雫姉にそんなことをしようとした男を許すことが出来ない。まだ何かが起こったわけじゃないから警察も動いてくれないと思う。だから、皆の力で追い込んで欲しい」

「なんだ、そのようなことですか……。てっきり国を滅ぼそうなどという話かと。一人の人間を改宗させるなど容易い事です」

「確かに。ボスがワシらを呼ぶなど、とんでもない話かと思ったが、その程度の事であれば造作もない。任せておけ」

「ふふふ、私の王を苦しめるような輩に生きる価値無しです。お任せください」


 僕の私的な復讐なのに、三人達は全く否定しようとはしない。本当はこんなことしてはいけないんだろうけど、許せないものは許せない。


 外道には外道なりの対処を取らせてもらう。


「それじゃあ、雫姉、嫌なことを思い出させて本当に悪いんだけど、例の男の事を話してくれる?」

「拓也……」


 僕が雫姉にお願いすると、雫姉が心配そうにこちらを見る。


「大丈夫だって。絶対悪いようにはならないから」

「……分かった。拓也を信じる」


 僕が安心させるように優しく微笑むと雫姉は暫くの沈黙の後、僕に任せることに決めた。


「ありがとう雫姉」

「んーん、こっちこそありがと。それじゃあ、あの人のことだけど……」


 僕は嬉しくなってにっこりと笑って礼をすると、雫姉がクールなその表情を少しゆがめた後、昼間のあの男の事を話し始めた。

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