第5話 プールへ

1996年8月5日(月)


みんなで遊ぶ当日は見事に晴れ渡ってくれた。

待ち合わせの駅で俺は空を見上げる。

そこには雲一つない青空が広がっていた。


室内プールとかアイススケート場とかも

あるとか聞いてたから雨降っても

そこそこ遊べただろうけどね。

遠藤はそれを見越して、選んだんだろう。

あいつはそういうのはソツがない。


しかしまぁ。一年の半分は雨で、なおかつ

晴れてるときもどんよりした雲が空を覆うコトが多い

この北陸で、すごいもんだ。



流石はシャーマン遠藤!!



あいつは陸上よりシャーマンやった方が良いかもしれない。

顔に模様塗ったらそれっぽくなるだろう。

合宿の時にやってみよう。

油性で……。



そして待つこと数分。

清水さんが来た。


その姿に、俺は思わず目を広げてしまう。


し。私服姿の清水さん!!

感情のボルテージが急上昇する。


そうだ。

学校じゃないんだから私服なんだよ。

今更ながらに当たり前のことに気づく。

気付いてなかった訳じゃない。気付いてなかった訳じゃないんだ。


可愛いい。

何だこの凶悪な可愛さは!!

俺は女子の服の事とか良く知らないけど

薄い水色のワンピースとかいう奴だと思う。

清水さん自信の清楚な印象と相まって可愛らしさが強調され……。


って。あれ。何かバケット持ってる。

重そうだな?


「おはよう。清水さん。それ何? 重いんだったら持つけど」


「えっ。良いんですか」


「持ってくもの。じゃ俺持つよ」


「うーん。50点」

いつの間にか現れたアカリが口を挟む。

何だよ。50点てのは。


アカリも当然、私服だ。

だがアカリの服がとんでもない。

大きめのシャツに上を羽織って。

短いジーパンかあれ。(デニムのショートパンツです)

生足がボンっとでてる。

い。いかん。あれは綺麗ではあるがアカリの足なのだ。

サソリと一緒だ。見てたら刺される。

目に毒だ。


しかしまぁ。

決して似合ってないわけではないのだが。

はぁー。もうちょっと慎み深いのが、俺は好みなんですがねぇ……。


やがて高宮と遠藤も現れる。

高宮は白いシャツに黒い長めのスカートとその色と同じ長めのソックス。

良家のお嬢さんという感じだね。

遠藤は軽めのジャケットにインナーにシャツ。それとハーフパンツ。

簡素なデザインのものだけど着慣れてる感じはする。

しかし高そうだね。君達の服。


俺はほぼ無地の水色のTシャツにハーフパンツ。

あとサンダルだね。

何! その辺の中坊と変わらんだと!?

ほっとけ!!


「それじゃ。みんな揃ったし行きましょう」

アカリが仕切りだす。

この中じゃリーダーシップ取らせて上手くいくのはアカリだろう。

リーダーシップというべきか、強引に周りを動かすというべきかは

微妙なところでもあるのだが……。。


切符を買って、乗車口で電車を待つ。

俺の横にいたアカリが言葉を掛けてきた。


「どう。私たちの私服?」


「うん。似合ってんじゃない?」


「何? もっと気の利いた事言えないの?」


「おまえの服っていうか、足がボンと出てて、服っていうより、足なんだよ」


「あら。いやらしい。私の足見てたの?」

そう言いながらアカリは足をにょっきりこちらに見せてくる。

止めれ!

外見(スタイル)だけはいいのだこいつ。

いっ。いかん。あの足は女ゴジラの足なのだ。

いたいけな少年達を踏み潰してきた足なのだ。


だまされてはいけない!


んー。でもやっぱり白くてほっそりした綺麗なおみあ……。

だぁー。駄目だ。駄目だ!

ちくしょう!

だまされるもんか!

はっ。そうだ。こんな時こそ!!

そう念仏。念仏だ……。

色即是空。色即是空……。


「……何ブツブツ言ってるのよ」

アカリから突っ込まれた。


「な。何でもねーよ。そ。それに俺は清水さん見てたの。

あのなぁ。俺は清水さんみたいな服とか好きなの」

慌てて答える。


「どーこーがー好きなのかなー?」

アカリが嫌らしくまとわりついてくる。


「か。可愛らしいだろ。いや。あー。清水さん自身も可愛らしいし。

一石二鳥……。じゃなかった相乗効果ってや……」

しゃべってる途中でずいぶん訳の分からないことを言ってることに気付く。

そろっと逆側にいる清水さんをみる。

か。顔を俯かせている。表情が見えなーい!


「……これでようやく100点ね」

横でアカリがぼそっとつぶやいた。





電車に揺られて20分。加えて夏休みの臨時バス20分。

割と長い時間なんだが、それを忘れた。

ふとした隙にアカリが俺にトンデモナイコトを耳打ちしたからだ。



「帰りはミサキと二人きりにしてあげるからさっさと告白なさい」



……。時間が止まった。

いや。本当に止まったわけじゃ無いんです。

いや。でもやっぱり止まったんです。僕の時間が……。


で。アカリの言葉を理解して、急に動き出しました。


と。突然すぎる!

あのアマ!!


……あぁぁ。

何も考えて無い!

考えられない!

どうしよう。どうしよう。

どないしよう!?

何言えばイイんだ。

……あぁぁ。……あぁぁ。

そういや。告白の言葉。ちゃんと考えてない!?



あぁぁ。頭がフットーしそうだよおっっ 。



頭を抱えていたら

いつの間にやら

名物のウォータースライダーがだんだん近づいてきた。


ウォータースライダー。

要するに水が流れる滑り台。

そして滑り降りた先には

滑走してきた人間の衝撃を吸収するプールまである親切設計。

なんだけど……。



いや、でもアレ。

ちょっとでか過ぎない!?



あの上から滑るの俺達……。

けっ結構、高いのね……。


「け。けっこうでかくねーか。あれ?」

俺は思わず声に出してしまった。

俺の横では遠藤が血の気が引いた顔で見あげていた。


「情けないわね。あんたたち。怖気づいたの」

アカリが煽ってくる。


「おっ。怖気づいてねーよ」

強がってみせた。


「どうかしら?」


「ねぇ。シオリ。一緒に滑ってくれない男の人って……。幻滅よね」

アカリが高宮に声を掛けた。

アカリは攻撃の矛先を遠藤に変えたようだ。

しかし。あれって二人で滑る事出来るんだ?


「そうですね。一緒に滑ろうと約束しましたし」

高宮がさらっと答えた。

そう言って高宮は遠藤の前で頭を少し下げ、上目づかいで彼氏を見あげて呟いた。

「ね。遠藤君」


うわー。あれはきつい!

あんなもん誰も断れん!!


「もっ。もちろんだよ。高宮さん」

遠藤が高宮に答える。

血の気引いてねぇーか。遠藤。


遠藤の答えを聞いた高宮はニッコリとほほ笑んでいた。

……。しっかり尻に敷かれてますわ。


成田離婚。

それは異性の望んでいる姿を見せられないこと、

または情けない姿を見せてしまうことが要因となって

スピード離婚してしまうこと。


……。もしかしたら起きちゃいそうですね。成田離婚。




さて入場料を払って、

次なる場所は勿論プール……。

なんですが、その前に着替えである。


もちろん着替えは男女別。

だけど、着替えた先では合流できるから

そこで落ち合う約束をして俺たちは一端別れた。


清水さんから預かっていたバケットの中に着替えも入ってるとかで

バケットは清水さんに返していた。


着替えって男の方が早いんだよね。


滑ってるときにちびったらまずいぞ!

ということで二人で念入りにおトイレを済ませて、

俺と遠藤は先に着替えて女性陣を待っていた。



やがて三人の美少女が出てきた。



何っていえばいいの?

綺麗どこが3人こっちに向かってくるんですよ。

他の男どもが3人を見てますよ。凝視です。凝視。

何? このちょっと誇らしい感覚。


「どう?私たちの水着姿は?」

アカリが宣う。



ふむ。



アカリと清水さんは流石にテニス部だけあって腕回りがしっかりしてる。

それと太もももに割としっかりと筋肉がついてるな。

テニスはよく知らないが頻繁にストップ&ゴーを繰り返す競技だから

太ももは発達しやすいんだろうな。


高宮は高跳びの選手だ。

だいたい高跳びする選手は身長が高くて腰の位置が高い事が多い。

高宮もすらっとしていて腰が二人と比べて少し相対的に高い位置にあった。


やっぱ競技に向いた身体つきってあるよなー。

適した種目選ぶのは大事だなー。



俺ももう少し身長があればなー……。



と女性陣の身体つきを見ながらシミジミとした想いにふけってしまった。


……だがそれが良くなかった。


「あんた。ちょっと。凝視しすぎ!!」

身体つきと競技との関係性をアレコレ考えていたら

アカリから突っ込まれた。


しまったついマジマジと見てしまっていたらしい。


「ち。ちがう。お。俺は体つきの違いを見ていただけで」

言い訳ではあるが、実際に競技の事"も"考えていた。


「認めたわね。あんた。どうせ私達の胸とか、見比べてたんでしょう!?」

まぁ。見てた。見てたけど、他のことも考えてたんだよ。


「いやらしい!!!」

そう言いながらアカリは水着をきた胸元を手や腕で隠す。

右へ倣えで清水さんと高宮も似たような対応を示す。

ちがうんだ!

ちがうんだよー!!


「お前。女子の水着姿をそういった目線でみていたのか! 鬼塚!」

遠藤がキレてる。

いや見ちゃうだろ。男なら。

しょうがないだろ。分かれよ。

お前も男の子だろ。


「いや。だから。腰の位置とか高いと、高跳びの……」


「腰を見ていたのか。ふーん。腰ねぇ。それって下半身よね。つまり……」


離れた位置で高宮と清水さんがヒソヒソ話してる。

違う。違うから。

だからヒソヒソ話しないで……。


「違うから。違うって。俺は身体つきと運動の関係をだな……」

何とか流れを変えたく、

イイワケを続ける。

いや。決してイイワケじゃないんだが……。


「運動!? どういう運動よ」

アカリがまた変なところに食いついてくる。


「夜のあれか!?」

そして遠藤がさらに変な方向にもってく。

ちがーう。ちがーう!

話が変な方向に行ってる。


へるぷ。へるぷ!

清水さん。高宮。助けて!!

救援を求めて

少し離れたところにいる二人を見た。


「男の人って。どうしてもそういうものなんですか?」

と清水さんが高宮にヒソヒソと話しかけている。

清水さん。聞こえてるからね。


「遠藤君もですけど。鬼塚君は特に酷そうですね」

高宮……。


どうやら救援は無さそうだった……。

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