第42話 打ち上げ

1996年7月22日(月)


「テストが終わったから打ち上げをしましょう!」

テストが終わった直後、アカリが切り出した。


実際のところは高宮の気分転換も兼ねてなのかなと思う。

アカリは割と仲のいい女子にはそういった気遣いをする奴だ。

そういうのを男子にも向けてくれりゃーいいんだけど。

男女不平等なのだ。

奴は。


しかし、打ち上げねぇ。

ちょっとしたファミレスで食べるくらいかなと思う。

と思っていたら学校近くの喫茶店にすると

アカリが宣った。


たまにクラスの奴らが入ってるのを見かける店だ。

俺は行ったことが無い。

高そうなメニューもあったと思うけど。

まぁ。珈琲ぐらいなら頼めるかなと思う。


「アンタの財布の事情ぐらい分かってるわよ」

アカリがぼそっと俺に伝えてきた。


「それに部活終わりの簡単なものよ」

だそうだ。


「まぁいいけどさ。他の奴らは来るの」


「ミサキとシオリも来るわよ」

まぁそうだろうとは思う。

それを聞いて俺と遠藤は自分達を指さした。


「アンタ達は強制連行!」

ギロッとこちらを見る。

試験結果を見た時のアレがまだ尾を引いてそうだ。

トモサカでも上手くなだめられなかったのかもしれない。


「それに外周走る以外に他にすることないでしょ。アンタ達」

お前ね。全国の長距離ランナーに喧嘩売ったぞ。




部活の帰り、そのまま学校近くの喫茶店に入る。


アカリが店の奥の方の席を選んだ。

ソファーが二つと間にテーブルがある。

おそらく六人用の席だ。


注文を済ませてしばらく経つが

割と視線を感じる。


そうだよな。

きれいな花が3つもあればね。


アカリ、清水さん、高宮

タイプは違うけど三人とも美少女に類されると思う。

周りから注目を浴びても仕方ない。

が、落ち着かない。


「鬼塚君。どうしたんです」

清水さんが心配そうに声を掛けてきた。


「何か。注目浴びてて落ち着かねーなって」


「そうです?」

清水さんは周囲の男どもの視線に気づいていないのかな。

俺は周りをさっと見渡してみた。

やっぱこっち見てる奴らがいる。


「気にしちゃ駄目ですよ」

気付いているみたいだ。

無遠慮な視線に。


「ガン飛ばしてやろうかな」

眉間に皺を寄せる。


「だ。駄目ですよ。喧嘩しちゃ」

清水さんが慌てる。


「そうそう。そんなの気にしないの。

楽しむものも楽しめないでしょ」

アカリがすまし顔で答える。

ま。そりゃそーなんだが。


「綺麗な花が3つもあれば仕方ないってのも分かるけどね」

そう言うと、横で遠藤がうんうんと頷いていた。


「あら。珍しく褒めるじゃない」

アカリが口を挟んできた。


「ま。一つは世界最大の花であるラフレシアだな」

表向きは誉めた発言である。

あくまで表向きは……。ふふっ。


「でもラフレシアは匂いが……」

高宮が苦笑する。

やべ。高宮は生物得意だったよな。

知ってんかな?


「だ。れ。が。ラフレシアですって!!」

アカリが怒りの形相を見せる。

やべっ。アカリの奴知ってたか!?




バカ話をしていたら、注文した品が来た。


俺は珈琲。

遠藤は紅茶。


そして女子には……


しかしこれ女子達食べるの?

と思うサイズのパフェがテーブルにでんと乗っかった。


まずボリュームがすげー。

プリンやら果物やらチョコレートやら

がぎっしり詰まっている。

甘いものが苦手な俺は見てるだけで胸やけしそうだ。

苦しそうにパフェを見る俺とは違って

女子三人は目を輝かせている。


女子供は甘いものが好きっていうけど。

ちょっと異常だと思えてしまう。

お袋も好きな方だけどここまで食べないぞ。


これ打ち上げなんだよな?

パフェを食べる会じゃないよな。

でも何か女子達が

パフェ食べたかっただけかもしれないと思えてきた。


「アンタ達もちょっと食べる?」

アカリが宣う。


「いや。いい。甘いもの苦手だ」


「え。でも少し甘いぐらいなら大丈夫なんじゃ……」

清水さんが聞いてきた。


そういやそんなことも言ったかな。


「あー。いや。遠慮しとくよ」

その言葉に清水さんが少し悲し気な顔を見せた。

アカリは露骨に不満げだ。



あっあっ!

……しまった! ろくに考えずに答えてしまった。



「あ。僕は少し貰おうかな」

俺に比べて遠藤は上手く答える。

高宮からなんか貰ってた。


店を出た直後に

遠藤と高宮はまた二人で来ようねと話をしている。

……。俺も清水さんとそんな話がしたい。



チクショー。失敗しちしまった……。



果物ぐらいなら食べられるから、貰えばよかった……。

清水さんもそれとなく

よりそって歩く遠藤と高宮の二人の様子を見ていた。

あんな感じになりたかったんじゃないかと期待してしまう。


やらかしちまった……。


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ラフレシア……「世界最大の花」としてよく知られている。

この花の花粉を運んでいるのはハエであり、

汲み取り便所の臭いに喩えられる腐臭を発し、ハエを誘引する。

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