第40話 期末テスト結果

1996年7月18日(木)


期末テストの結果が


ついに…


ついに……


返ってきた!!


俺の数学の点数は……


数学Ⅰ 94点!

数学A 96点!!


良い結果と言えば良い結果だけど……。


くやしい。


計算ミスとかして減点されていた……。

検算する時間無かったんだよな。


それに他の科目の結果も中間テストよりは大分良い。

70点台から80点台!!

勉強会の結果が表れた。


これで、


赤点、補修は免れた……。


夏休みが確保できた。


だが……。

肝心のアカリの点数が分からん?

数学は90点台というのはチラッとだけみえた。

うーん。勝てているだろうか。


そうそう。

遠藤の試験結果もだいたい良くて

特に物理は96点だった。


……やっぱり満点は難しいよな。

小学生とか中学生の頃なら取れたこともあるけど。


アカリに点数見せてって言っても教えてくれないだろうし。


ここはやはり……。

張り出される試験結果を確認するしかあるまい。


そして今日。

試験結果が張り出されるのだ!!


いつもよりせかせかと廊下を歩く。


横を歩いている遠藤の目的地も同じだ。




試験結果!


試験結果!!


数学の試験結果!!!


念仏のように呟く。


横の遠藤も神妙な顔して何かブツクサ言ってる。



「……勝てる。物理法則上勝てる。

勝てなかったら物理法則がおかしい」



おかしいのはお前の頭だ。

と突っ込みを入れたいのは我慢して

まずは試験結果である。


数学Ⅰ

1位 友坂 勇理  98点

2位 司  士郎  96点

4位 愛川 明香里 94点

   鬼塚 和樹  94点


数学A

1位 司  士郎 100点

2位 友坂 勇理  98点

4位 愛川 明香里 96点

   鬼塚 和樹  96点


「嘘だー!!!」

結果を見て思わず、頭を抱えて叫んだ。


周りの奴らが驚いてこっちを見ているが

やがてその視線が他に移った。



「そんな物理法則聞いて無いよー!!!」

遠藤の大声が響いたからだ。


少し横の物理の試験結果を見る


物理

1位 司  士郎  98点

3位 愛川 明香里 96点

   遠藤 学   96点

4位 友坂 有利  94点


お前もか

遠藤……。


結果は二人ともまさかの同点だった。


二人とも何とも言えない表情で向き合った。

「鬼塚。俺達がんばったよな」


「あぁ。頑張った。何も恥じる事は無い」

そう言って俺達は互いを慰め

肩を叩きあった。


遠藤は少し涙目でもある。


お。まずい。ちょっと周りがざわついている

遠藤を乱暴に引きはがした。

俺にその気は無い。

遠藤もだけど。



もう何かどうでもいいことに思えてきたけど……。

順位を確認しよう。


期末テストの総合順位は……。


アカリ   2位

清水さん 10位

高宮   15位


遠藤   71位

俺    75位 162名中


となっていた。


ま。そりゃそうだよね。


俺達に遅れて

アカリと清水さんと高宮がやってきた。


そんな中、

「アンタ達何でそんな浮かない顔してるの

そんなに悪かったの!?」

容赦ないアカリの声が飛ぶ


「あら。私と同点の科目もあるじゃない!?

なんでそんな残念な顔してるのよ}

……同点だからなんだけどね。


「それにしても……アンタ達。

80位以内って割ととやるじゃない!

その調子で頑張んなさい!」

若干、いやかなりの上から目線ではあるのだが

アカリに褒められた……? ようだ。


遠藤は横で口をパクパクしている。

コイツは驚くと呼吸困難で水面に浮いている金魚になるようだ。

高宮にすくい上げてもらって、持って帰っていただこう。

金魚の餌やりは生物が得意な高宮の仕事だ。


「ちょっと。何? 二人とも驚いたような顔して」

アカリが怪訝な顔をして俺達に声を掛けた。

いや実際かなり驚いてるんだが……。


「いや。お前から褒められるとはなぁ……」

俺はその驚きをそのまま口にする。


「うん……」

遠藤も同意を示す。


「しっかり前向きに努力して、結果を出す人間は

私は誰であろうと褒めるわよ」

アカリが嘆息しながら答える。

清水さんと高宮も横でうんうんと頷いている。


「いや。俺達もそれなりに努力してたと思うんだが……」


「そうかしら? 

これまでのアンタ達は私達に

おんぶにだっこしてるようにしか見えなかったけど」

ぐっ。痛いところを突く。

まぁ。確かにそういう部分はあった。

まぁまぁとアカリの横にいる清水さんと高宮がなだめている。


「でも。なぁ」

俺は遠藤に同意を促す。


「うん。まさか愛川さんから褒められるなんてね」

遠藤が同意を示す。


「いつも貶されて、見下されてばっかりだったしな」

俺もそれに答える。


「悪口しか言われないのかなって」

遠藤が付け加えた。



「アンタ達ねー。私の事どう思ってるのよ?」

怪訝な顔をしたアカリが腕組みしながら質問してきた。


「別に怒らないからちょっと言ってみなさい」

アカリが勧めてくる。

怒らない? ホントに?

だったら言おうか。


遠藤と若干示し合わせながら

アカリをどう思っているか俺達は口に出した。



「女王様気取りの自意識過剰女」

 と俺。


「"パンが無いならお菓子をお食べ"とか本気で言いそうだなぁとか」

 と遠藤。


「女ゴジラ」

 俺。


「いや、むしろ女モスラでしょ」

 遠藤。


「口からビームでそう」

 俺。


「んー。口から罵詈雑言じゃない」

 遠藤。


「そうそう。泣く子も黙る毒舌美少女」

 俺。


「"おーほほほほほ! 愛川アカリでございます"って言ったら似合いそうだなぁとか」

 遠藤。


「……そんな奴。まともな人間とは付き合うことできないんじゃねーの」

 少し笑いながら俺。


「付き合う人は人間辞めてるよ」

 大笑いしながら遠藤。



ふっと脇をみるとアカリが震えていた。


「アンタ達!!!!!!!!!!!!!」

アカリが切れた。

罵詈雑言の火炎放射を浴びせられた。



おいおい。お前。怒らないって言ったじゃねーか。

嘘つき女モスラめ。






「正直に言って良いと言われても

言うべきではないことがあるってことだよ。

……カズ」

トモサカが苦笑しながら口にする。

アカリを怒らせたことはトモサカの耳にも入ったらしい。

休み時間にフラッと俺達二人の前に現れた。


「女性の場合、男性の3倍以上、良いトコロとか感謝を告げないと、

人にも依るけど機嫌が悪くなりやすいよ」

そういうもんなの?


「そんなのどうすりゃいんだよ」

アカリを褒めるって、顔とスタイル

よーするに外面だけだぞ。

あれは。


トモサカは少し考えてから話し始めた。

「今回、多分愛川が勉強会の進行や教育係を務めたんだと思う。

それで上手くいってこの成果なんだと思うけど

それについて褒めたり、感謝の言葉は伝えたりはした?」

トモサカは廊下に掲示されている試験結果をアゴで示した。


「うっ。ぐ。いや。してない」

そう言えばそうだった。

遠藤と顔を見合わせて確認する。


「駄目だって。

お礼すべきことが出来たら、感謝の言葉を述べる。

相手のいいところを見つけたら、すぐに言う。

これは男女関係に関わらず基本だよ」

トモサカからたしなめられる。


「愛川は感謝されると思ってたんじゃないの。

進行と講師役を引き受けて。

……そしてこの結果を受けて。」

トモサカが訳知り顔で宣う。


「「うっ!」」

俺と遠藤は痛いトコロを突かれてしまった。

確かにテストの結果は良かった。

これは勉強会のおかげと言っていい。

そしてそれを指揮したアカリのおかげともいえる。

その気まずさが俺達の顔に出たのだろうか。

トモサカは全てを理解したかのような表情をみせた。


「愛川にはというか……

愛川に関わらず、受けた恩があるなら

素直に感謝の言葉を告げた方がいいよ

それとこっちで彼女はなだめておくよ」

そう言ってトモサカは立ち去った。


「トモサカ君が人気があるのが分かった気がする」

遠藤が今更、気付いたように口にした。


「あいつは人の心に入り込むのが上手いからな」

良くも悪くもではあるが……。

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