第14話 遠藤の提案とアカリの改善案

1996年6月20日(木)


「私はその‟生徒会の考え‟が好きじゃない!」

アカリがトモサカの考えに対して拒絶の意を示した。


俺には、なんかいい話に聞こえたんだが?

どこか駄目なところあるんだろうか?

清水さんも表情曇らせていたし。


「そうかい。じゃ、これも持って帰ろうか?」

トモサカが過去問や小テストの詰まったキングスファイルを手にする。


「それは……」

アカリが声に詰まる。

俺もそれは困る。


「冗談だよ」

トモサカが悪戯っぽく笑う。そして続けた。


「別に生徒会とか僕の事は嫌ってくれて構わない。

でもこれは誰にでも使い道の有る資料だと思う。

僕の考えに縛られる必要は無いよ。

君達の思うように使ってくれ。

ただ……。返却はして欲しい。

他のみんなもこれ、欲しがってるから」


そうしてトモサカは机の上にキングスファイルを置き、図書室から去っていった。




場に一瞬の静寂が訪れる。




俺は状況を見計らって、俺は遠藤を肘でつついた。

"お前の提案を示せ"の意思表示だ。


「あの。このファイルはこのファイルで。考えるとして

僕から勉強会について提案があるんだけど……。

みんないいかな?」

遠藤が提案の説明を始めた。


「その今までの勉強会では……だけど。

分からない部分を誰かが質問して、

それに答える形だったよね」


「うん。だいたいそんな形でしたね」

高宮が答える。


「そうじゃなくて、単元というか教科毎に

教師役の人を固定したら良いんじゃないかって……」

「えーとつまり。みんな得意な教科があるから

その得意な教科毎に教師役を決めようかという話……」


「あの。遠藤君の言ってる意味は分かるんです……けど。

そうすると、教師役の人が答えられない時に

誰もフォローしないことになりますし……。

でもそれはそれで問題ですから

その……。説明ができる他の人が答えることになって、

結局、前と同じことになるんじゃ……」

高宮は反対のようだ。


「教師役の人を決めたととして

ちゃんと答えられる保証は無いですからね……」

清水さんも高宮に同意のようだ。


……。しまった。抜かった。

俺は各々が担当する教科さえ全員で決めれば、

みんな同意してくれると思い込んでいた。

だが女子達の反応は違っていた。


遠藤と俺の目的は勉強会における負荷の分散。

彼女達の方が成績が良かった為、

負担のかかる教師役は必然的に彼女達が担う事が多くなっていた。


『私達の事を体よく利用してるのではないか?』

このままではアカリが言った言葉通りになってしまう。


「いや。でも。その……」

遠藤が言葉に詰まる。


「遠藤! 目的をちゃんと言いなさい。

手段を先に言うから同意を取りずらくなってる!」

アカリが窘めた。

アカリは遠藤の目的を理解している。


「その。

教師役をしている事が多いのは

愛川さん、高宮さん、清水さんだから

その……。

負担が大きいかなって……

だから僕らも出来る事はしなきゃって……」

遠藤は素直にその胸の内を表した。


「つまり。

今まで主に私達女子がしてきた教師役……

その負担の軽減を"目的"として、

男子のあなたたちも得意科目は教師役を務める。

……。

遠藤の提案はそういう目的ね」

アカリが遠藤の意見をまとめるながら、至極当然といった形で言葉を発していた。


「う。うん。そう。そうなんだ」

遠藤がアカリのまとめに同意を示した。


「ですけど……」

高宮から反対と思しき声が上がりかける。

だがアカリがその声を制した。



「……。出来るんじゃないかしら?

このトモサカが置いていった、この資料。

これを使えば出来るんじゃない?」

アカリは思いついたようにポツポツと語りだした。



「えーと。その資料をどうすんです?」

高宮が質問する。


「つまり……。

小テストを前もって、各自の自宅でしてもらって。

昼休みに正答率の低いものだけ、教師役の人に説明してもらえばいいのよ。

問題が前もって分けられているわけだし、説明の準備も出来る。

そう言えば確かこれ、解答も付いてるんでしょ?」


「うん。解答も付いてますね」

高宮がキングスファイルを確認した。


「だから教師役の人は小テストの……。

えーと。

多分一日一人一枚ぐらいの分量になると思うけど、

それ一枚だけは完璧に説明できるようにすればいい。

だいたい授業は一日に5限か6限でしょ。

それに体育や美術とかテストの無い授業もある。

そしてここには5人いる。

だからだいたい一日一人一枚の分量よ。

これなら……アンタ達でも出来るんじゃない?」

その言葉と共にアカリが

俺と遠藤の覚悟を伺うように俺達の目を覗き込んだ。



俺達は即座に"やってやる"という表情で答えた。



俺達の表情が女子にどう受けとめられたかは分からない……。

だが、このアカリから出された改善案……


それにみなが同意を示した。

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