第6話 ジ〇リで物理?
1996年6月13日(木)
遠藤と高宮は、初々しいカップル宜しく、
勉強会でも、激甘の空間を展開し、近づき難いことが稀にあった。
そして今日、高宮は物理の公式全般の使い方がよく分からないらしく、遠藤に質問していた。遠藤は物理が得意のようで、それに関しては高宮より中間の点数が良かった。
「キ○って。すごい力持ちなんだよ」
遠藤が少し自慢げに話しだす。
「そうなんだ? けどそれと物理の公式となにか関係あるの?」
高宮がそれに合わせる。
「うん。関係あるよ。飛行船から落ちたト○ボを捕まえたでしょ」
そういや。そんなのあったな。魔女の宅○便で。
「で。このときの動作を自由落下運動と運動方程式に当て嵌めると……」
いやいや。当て嵌めんなよ。
ファンタジーなんだぞ。あれは。
「ト○ボの落下時間が約2.5秒とすると、
ト○ボの最大速度は、自由落下運動つまり等加速度運動の公式に当て嵌めて……」
遠藤が説明を続けながら、ノートに計算式を書き込む。
・等加速度運動の公式(※空気の摩擦は除く)
v[m/s] =v0[m/s]+g[m/s2]×t[s]
24.5[m/s]= 0[m/s]+9.8[m/s2]×2.5[s]
ま。まぁ。落下速度はだいたい24.5m/sということか……。
「ト○ボって確か20、30mぐらい落下してた気がする……」
高宮が呟く。
「そうだね。エネルギー保存の観点からも、
この速度が妥当かどうか考えてみよう」
遠藤が得意げに続ける。
「落下によって位置エネルギーが速度のエネルギーに変換されたとして、
エネルギー保存の式に当て嵌めて……と」
・エネルギー保存の式
位置エネルギー=運動エネルギー
m[㎏]×g[m/s2]×h[m]=m[kg]×v2[m/s]÷2 (注 v2の2は二乗の意味です)
「この式を変形して……速度を求めて……数値を代入して……」
遠藤がノートに書き加えていく。他四人は黙って事の成り行きを見守る。
v[m/s]=√2×g[m/s2]×h[m] (注 √は式全体にかかっています)
v=√2×9.8×20~√2×9.8×30
v=19~24.2[m/s]
「あ。すごい。さっきの速度(24.5m/s)とだいたい同じぐらいになりましたね」
高宮が数字を見て相づちを打つ。遠藤の説明が割と上手い。
等加速度運動の式とエネルギー保存の式を同時に説明しやがった。
「だから計算は間違えてないと思うよ」
遠藤が答える。
「でもこれってどれくらいの速さ何でしょう?」
清水さんが疑問を呈した。
「わりと速いと思うよ。高校野球の投手が最低でも時速100km/hで投げるから
これを単位を合わせると……」
遠藤がその速さを分かり易くする為に、説明を続ける。
100[km/h]=100×1000[m/h]=100×1000÷3600[m/s]=27.7[m/s]
「27.7m/s(≒24.5m/s)! 高校野球の投手ぐらいの速度は出てるのか」
遠藤のノートを見ながら、俺は思わずつぶやいた。
「うんそれで、ト○ボの体重が50kgで
そしてこの速度が急激に0m/sになったとして、力積の公式に当て嵌めると。
あ。そうそう。キ○が引っ張り上げて、
速度0m/sになるまでをビデオで何回も見たけど
だいたい0.4秒ぐらいだったから……これも当て嵌めて」
こいつ。何回も見たのかよ……。
俺は思わず突っ込みそうになったが、黙っていた。
・力積の公式
F[N]×t[s] =m[㎏]×v[m/s]-m[㎏]×v0[m/s]
F[N]×0.4[s]=50[㎏]×0[m/s]-50[㎏]×24.5[m/s]
F[N]=-50[㎏]×24.5[m/s]÷0.4[s]=-3062.5[N]
「この3062.5Nは荷重だけど、分かりづらいから
普段のト○ボの荷重を運動方程式に当て嵌めて比べてみると……」
・普段のト○ボの重さ(運動方程式より)
F[N] =m[kg]×g[m2/s]
490[N]=50[kg]×9.8[m2/s]
普段の重さは490Nだけど、キ○がト○ボを支えた時に加わる力は3062Nにもなってんのか?体重の6倍近い力がかかりゃそりゃねぇ……。
「あ。すごい。こんなに力がかかるんですね」
高宮さん? 引くとこですよ。食い付くとこじゃないですよ!
あくまでファンタジーなんですよ! あれは!!
何だかヤバい。ジ〇リフリーク1号と2号が異様な盛り上がりを見せている。
「わー。こう見るとほんと分かり易いですね」
不味い! 清水さんも食い付いた。
このままでは清水さんが3号ならぬV3になってしまう……。
アカリは大丈夫だろうかと思い、
横目でアカリの方をチラ見する。
アカリも遠藤、高宮、清水さんのやり取りが気になるようで
チラチラ様子を伺っていた。
仲間に入りたいのを我慢しているような感じだ。
……。何かアカリも駄目そうだな。
「それぐらい強い力だと、キ○の体壊れちゃいそう……」
清水さんがいぶかしがる。
だから。ジ○リで物理やっちゃダメなんだって!
そもそも、そんなこと言い出したら
ラピュ○は何で浮いてんだって話になっちゃうから!!
「うん。肩が外れるって言ってる人もいる」
遠藤が冷静に答える。
そうだろうね。ト○ボの重さの6倍に相当する荷重がかかればね。
高宮さんが疑問を呈する。
「運動方程式が間違えてるんじゃ……」
ちがーう!!!
ファンタジーに物理法則を当てはめようとする
君達が間違えてるんだよ!!!!!
思い切り突っ込んでやりたいのだが
一応、勉強になってはいるので
言い出せにない。
地団駄を踏んでしまう。
すると、清水さんが解決策を提示してきた。
「もしかしたらキ○はト○ボに触れた瞬間、
魔法の力でト○ボも飛ばしたんじゃ……」
なんと。清水さんはファンタジーにファンタジーを重ねてきた!?
「なるほど。確かにそうかも……」
遠藤が神妙な顔つきで答える。
何が"確かに"やねん。
「……。愛の力かも」
高宮がとんでもないものブッ込んだ。
あのね。高宮さん。
それはどのファンタジーでも割とよく使う最終兵器だから。
それ使っちゃうと、何でもかんでも叶っちゃうドラゴ○ボールと変わらんから。
ただ俺の横では遠藤と高宮と清水さん、さらにはアカリを含めて
あーでもない、こーでもないと話し込んでいた……。
……。いやだからあれはファンタジーなんだってば!!
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作者(itako8)より
ファンタジーはファンタジー、物理は物理ってとこですかね。
それとスイマセン。√と二乗が上手く表現できませんでした。
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