第3話 期末テストに向けてその2

1996年6月10日(月)


テスト前は毎日、昼休みに図書室に姿を見せていた清水さんも

近頃は二日に一回ぐらいのペースになっていた。

清水さんには委員会もあるし、

それ以外にも女の子どうしの付き合いとかもあるとは思っていた。

ただ詳しくは来れなくなった理由を聞いていない。


ただ今日は久々に昼休みに、清水さんが図書室に来てくれた。

心に沸き立つものがあるのだが、それを隠しながら

勉強会の案を話してみた。


「あの。清水さん。昼休みに図書室でみんなで勉強したいんだけどいいかな?」


「みんなって?」

清水さんが小首をかしげる。


「遠藤と高宮が加わる形にしたくて」


「えっ。でも。ごめんなさい。委員会とかで毎日は無理なんだけど……」

やっぱり委員会か……。忙しそうだな。清水さん。


「あー。毎日じゃなくてもいいんだ。来れる時で良いんだ。

今まで通りで。

でも清水さん教え方丁寧で、分かり易いって話したら

みんなも聞きたいって……」

アカリから、清水さんの将来の夢は学校の先生になることだと聞いていた。

そのせいもあってか、彼女の教え方は分かり易かった。


俺の言葉を聞いて

清水さんが少し照れて、答えた。

「うん。いいよ。委員会の活動とか無い時は図書室に行くようにするね」


俺は清水さんから勉強会の了承を得た。


清水さんはホントに天使だなぁ。と思う。


そして高宮さんと遠藤が来ることは実は確定していて、

アカリはこれから誘う事を清水さんに説明した。


ちなみにアカリはテストが終わってからは図書館にパタリと来なくなっていた。

アカリにとって昼休みの図書室の利用はあくまでテスト前の限定的なものだったんだろう。


図書委員さんはしばしば顔を出していたが、溜息をついてる姿が多かった。

……受験勉強が上手くいってないのかもしれない。

2年後は自分もあぁなるのかなと思うと少しげんなりする。


「まぁ。毎日じゃなくてもいいよ。今でも教えてもらってるし

それに、他の人たちが加わるというだけだからさ」


学級委員を務めている清水さんはそれなりに忙しそうだった。

がんじがらめに縛りつけることは出来ない。


「アカリは俺から誘ってみるから、あいつは直接言わなきゃ動かんし」


「うん。アカリちゃんは……。そうだね。

でも私からも誘ってみるから。

鬼塚君が声を掛けて無理だったら連絡してね」

清水さんは短期間でアカリのことを理解しているようだった。


よし。これで外堀を埋めた。


同じクラスで仲の良い高宮

そして、同じテニス部で仲の良い清水さんが

勉強会に参加することになった。

これで来ないなら、来ない方が嬉しい。


アカリに良い条件を提示して断られる。

というのが最も理想的な結果であるという結論に俺は達していた。

一応は良い条件を提示して、誘ったんだ。

これならさほど文句を言うまい。



清水さんから勉強会参加の了承を得た次の日。


俺はアカリの元へ向かおうとする。

誘ったけど断られたという証を得る為に。



勿論、身代わりのヤギ……では無くて

遠藤を連れて。



「僕の目、充血してない」

遠藤が弱弱しく呟く。


「大丈夫だ。赤の警戒色にはなっていない」

遠藤が抵抗を見せるが、絶対連れていく!


それに自らを○蟲というなら、クシャー○に突っ込め。男らしく。

そして巨○兵のビームを受けて、華々しく散れ!


「ちょっと。身支度整えないと……」

遠藤は居住まいを正し始める。



このヤロウ……。

わざとらしいことこの上ねぇぞ。



「10秒で支度しろ!」

俺は語気を強めて遠藤を急かす。


「せめて40秒って言ってよ。そこは」

遠藤がうなだれながら答えた。

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