西国の妖狐の昔話しで御座います
かず斉入道
第1話 まあ、どこにでもありそうな、昔話しの怪談話で御座います(1)
むかし、むかし~。あるところに……ではなく。
日の本は西国、安芸の国に、おさんと言う名の小さくて可愛いメスの子狐が産まれたそうな。なのだよ。
でッ、産まれた子狐なのだが。
その子狐は大変に活発! 好奇心の方も大変に旺盛な可愛い子狐だったそうなのだ。
でも、その子狐さまなのだが。
ある時……。
そう、おさんはね、母さまの言いつけ。
「おさん?」
「ん、何、母さま?」
「もう少ししたら夏、お盆がくる。お盆がくれば。あの世! 冥府! 黄泉比良坂から亡者! 一度他界をしたのは良いが。未だ産まれ変わることもできずに迷っている魂、霊魂と呼ばれる物達が、この世! 現世に! 鬼火として帰還、帰ってくるから。その者達……。鬼火と戯れ、遊ばぬように分ったな? おさん? ……特にその鬼火を玩具して遊び、間違えて己のくちで咥え、間違えて食わぬように。おさん、分ったな?」と。
子狐おさん、の、母(かか)さまは、彼女に告げたのだ。
でッ、このお狐さまは、今年の春に四匹の可愛い子狐を己の体内に身籠り。無事出産。産んだのだが。
特に四匹産まれた姉弟達の中でも、おさんが一番活発! 好奇心旺盛!
自身の兄や弟、妹達にも事あれば、悪戯行為──。ジャレしては、『かまって! かまって!』、『おさんにかまって!』と、大変に自我も強く。目立ちたがり屋な子狐おさんだから。
母(かか)さまは、活発なおさん、を凝視しては、「はぁ~」と溜息……。
まあ、こんな感じで、幼い娘のことが心配、心配で仕方がない。ないのだよ。母(かか)さまはね。己の心の臓がチクチク痛む程に危惧して仕方がないのだ。
でもね? (かか)母さまの危の通りで、おさんに対して運命の時期、日は確実に近づいてくる。くるのだ。
この日の本には春夏秋冬と四季があるから致し方ない。
まあ、そんな季節、夏もそろそろ終わりかな? と、思う頃の季節……。
子狐の幼子だったおさん、も、すくすく成長して幼子、幼虫から蛹……。可愛らしい少女へと変貌。すくすく育ってきている夏の終わりが近いお盆の頃に、彼女はいつも通りの一人遊び。丸い石を探しては転がし。玉をとっては、じゃれ合い遊んでいた。いた最中……。
まあ、良い子にして遊んでいた時! 最中にだけれど?
子狐おさんが、丸い小石遊びに対して、少しばかり飽き、休憩……。
休憩をしながら入道雲が沢山、沢山湧いて、フワフワと浮いている。真っ青な空──。
空を子狐おさんが己の大変に愛くるしい顔を上げて凝視してみると──。
「……ん? あれ? あれは何? 何だろう?」と。
子狐おさんが思わず。己の脳裏で思い。言葉、台詞になり。漏れてしまう。独り言を呟いてしまうような物──!
そう?
子狐おさんの、頭上に、青色した玉が『フワフワ』と空中、空──!
子狐おさんの、頭上を浮遊している物を発見! 驚愕して! 独り言を漏らしてしまったのだ。
だって今説明した通りと、いうよりも?
未だに子狐おさんの、様子を見て確認をすればわかる通りだ。
子狐さまは、今も、驚愕、驚嘆を漏らした後も、呆然、沈黙し続けながら。
己の頭上をフワフワと浮遊しながら舞う。動く。蒼白い炎を、自身の可愛い瞳を点にしながら凝視を続けているようだからね。
「…………」
まあ、子狐おさん、は、こんな感じで沈黙。
でもね?
子狐おさんの、方も少しばかり時間(とき)が経ち。間が空けば。
自分自身の気持ちが、困惑、動揺をしていた物から好奇心へと移り変わる。変わっていくのだ。
元々少女、子狐おさん、は、自身の母(かか)さまが心痛、危惧するほどの、好奇心旺盛な少女、子狐さまだから。自然と彼女の胸の内はこんな感じで変化──。
子狐おさん、は、声──独り言を漏らす。
「な、何だろう? あれは?」とね。
子狐おさん、は、今度は先程のような驚嘆を漏らすのではなく違う。違うのだよ。少女の声色はね。
だって今の、子狐おさんの、声色は、明らかに好奇心……。
そう、子狐おさん、は、大変に興味津々、楽しそう。嬉しそう。ものめずらしそうにね。
それを?
ぼんやりと青白く燃えながら、真夏の青空を浮遊する。続けている炎の玉を凝視──だけならばいいのだが?
子狐おさん、は、その青白く燃えながら『フワフワ』と浮遊を続けながら移動をしている炎の玉に興味津々、魅入っている状態だから。
己の持つ四本足をトントンとリズムよく地面を鳴らしながら歩行。
『フッ、フ、フゥ~ン♪ コ~ン、コン、コ~ン♪』と、子狐おさん、は、鼻歌を歌い奏でながらリズム良く上を、空を、己の身体を青白く『爛、爛』と燃えさせながら移動をする炎の玉を見詰めながら移動。でッ、どれくらい子狐おさん、は、自分自身が移動したか、覚えていない。わからないくらい移動を続けると。
そこには大変に大きな社。社があるのだ。もうそれこそ、子狐おさんの、口から。
「な、何? この建物! 社は!」
と、驚嘆が漏れるくらい。と、いうか? 更に子狐おさんの、口から驚嘆が吐かれるくらいなのだ。
「わ、わらわと母(かか)さま。兄者に、姉じゃ、妹達が住んでいる巣穴の近くにも人が作りたもうた社や宮殿はある。あるのだけれど……。こんなに大きくて高い。高い~。天まで高い位置にある社、宮殿をわらわも見る。確認をするのは始めて。初めてだよ……。こんな大きな柱を使用して高さがある社、神殿を人と呼ばれる者達は建てる。作ることが可能なのか……。本当に凄い。凄いな……」と。
子狐おさん、は、自身の目の先にそびえ立つ、巨大な木造建築、宮殿、社なのかわからない建物──。
それも? 夏の最中の青空──。フワフワと浮遊する雲達の上にそびえ立つ、社のような宮殿を遠目で真下、というか? 下から遠目で見詰め驚愕──。
「凄い! 凄いな!」、
「母(かあ)さまが言っていた。告げていたけれど。人間と言う者達は、本当に凄いな……」と。
少女、子狐おさん、は、己の目を大きく開けながら感無量……。
そして、驚嘆迄漏らす。漏らすのだが。直ぐに子狐おさん、は、「あっ?」と、また驚嘆を漏らしてしまうのだ。
だって、子狐おさんが追った! 追いかけてきた! 青白く燃えている炎の玉があるのを見つけた、だけではないのだ⁉
子狐おさんの、クリクリ可愛い瞳に映る『フワフワ』と浮遊をしながら動く。移動をする青白く燃えている炎の火の玉は、一つではなく二つ、三つ、四つ、五つ……十(とう)でもないのだ。
【5】
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