戦場の魔女とただの一般兵
聖願心理
起床
騒がしくて、目が覚めた。
「やあやあ、おはよう。遅いお目覚めだね」
目覚めたばかりの霞む視界に映るのは、ふわふわと宙を漂う猫のような、犬のような、正体がわからない黒い生き物だった。
「遅くはない。騒がしくなったから、目が覚めたそれだけ」
透き通った銀の髪をいじりながら、ひとりの少女はベッドから降りた。
「それはそうさ。君はそういった体質なんだから」
「……今更言うことでもないだろうに」
「おや? 言い方が気に食わなかったかな? じゃあ、もっとロマンティックに言い換えようか」
少女の周りをぐるぐると飛びながら、黒い生き物は愉快そうに喋りだす。
そんな黒い生き物を少女は無視して、洗面所に向かって歩き出した。
「そうだな。こんなのはどうだろう? 君のそれは、揺らぎようのない運命なのさ。いや、これは君が背負っている運命だ、の方が好きかい? うーん、宿命って言葉も捨てがたいよな」
ひとりでぶつぶつとしゃべり続ける黒い生き物が流石に煩わしくなったのか、顔を洗い終えた少女は「うるさい」と言って、水をかけた。
「おっと、いきなり何をするんだい?」
「うるさいって言ったんだけど、聞こえなかった?」
「それは失敬。でも、私は君を思って、こうしてひとりでぺらぺらと喋っているんだよ? ひとりで寂しい思いをしないようにね」
「本当、よく回る口。気を使ってくれるのは嬉しいけど、あいにく僕は起きたばかりで、いつもの数倍はうるさく感じるんだよ」
大きなため息を吐きながら、少女は黒い生き物にデコピンをくらわす。
「痛いじゃないか。暴力に訴えかけるのはよくないと思うぞ」
「お前、痛みなんか感じないだろうに」
「こういうのは気持ちの問題なのさ」
「そういった気持ちもあるか、それすら疑わしいんだけど」
「はは、それは酷いじゃないか。私にだって、それくらい理解できる知識は持ち合わせているよ。たぶん、君よりもね」
黒い生き物の発言に、少女は眉をひそめる。
「……本当、気に食わない悪魔だ」
不満そうにつぶやいた少女の言葉が嬉しかったのかなんなのか、黒い生き物――悪魔は、「それは光栄ですね」と満足そうに言う。
「どうしてそんな言葉が出てくるのか、理解できない」
「私にとっては、誉め言葉みたいなものなので。ありがとうございます、世界を守護する魔女様?」
悪魔はにやりと笑みを浮かべて、魔女の耳元でささやく。
「……性格悪いよね、お前」
「それはそれは。大変嬉しいお言葉です」
「言うと思った」
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