幕間 火種

東京の夜は蒸し暑い。

その中でも人間達は静かに眠っている。

だから夜行性の多いモンスター達にとっては行動しやすい。

だから群れやすいし、蒸れやすい。


都内某所の公園では多くのモンスター達が集まっていた。

「(いっけー!!)」

「(そこだ!やっちまえ!)」


唸り声に近い野次が飛び交う群衆の中で、

モンスターが大勢の大柄なモンスター達に蹂躙されていた。


「(人間なんかに媚び売りやがって!!)」

「(あのエルフなんか人間の子供を孕んでやがる!)」

「(私達を人間の隷属にさせるつもり!?)」

「(モンスターの恥が!さっさとくたばれ!)」


老若男女、様々な種類のモンスターがそれぞれの言葉で、それぞれの罵声を5体のモンスターに浴びせていた。


そしてそのモンスターの中には、夏なのにもかかわらず、オレンジのダウンジャケットを着たゴブリンがいた。


「(オラ、さっさと立て!!)」

倒れていたゴブリンがオークに腹を蹴られる。

「うぐっ…」


起き上がる気配のないゴブリンを見てオークは呆れながらジャケットの襟を掴む。


「(お前は人間に助けられていたそうだなぁ。そのくせ人間に依存しようとするとは……)」

鋭い視線で睨まれる。

「(お前はモンスターの風上にも置けねぇ)」


「そ…んな事で、痛めつけ…られる、か……変な…奴らだ…」


息絶え絶えに吐いた言葉はオークの怒りに触れ、ゴブリンは地面に強く打ち付けられた。

そして背中を乱暴に踏みつける。

 

「(薄汚ぇゴブリンの癖にエラそうだ…オイ、剣をくれ)」


オークに手渡された片刃の剣がギラリと、常夜灯の光を反射する。


(人間は…悪なんかじゃない…こんな私でも助けてくれたんだ…)

ゴブリンの首に勢いよく剣が振り下ろされる。

ギラリと月光が反射して、刃が輝く。

(名前も知らないあの人間に…また会いたかった…)


鮮血が辺り一帯に飛び散って、群衆の歓声が轟いた。


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