都市圏のファンタジア

転生者狩り

　立神ケントから少し話を逸らして、もう一人の主人公についての話をしよう。

　東京にて次元衝突が始まる3年前……

　少なくとも、そこから世界は動いていた。

　ただし、この地球上ではない別の世界で。

　フィランディア王国、その中央、王都にあるテルファニー宮殿。

　賑やかな街並みの中に石造りの巨大な城が優雅に佇んでいる。

　しかし、その賑やかな街並みは壊滅し堅固な城の門には巨大な穴が開いている。

　大理石や宝石を贅沢に使った豪華な内装の宮殿。

　しかしその内部は、豪華な内装を台無しにする悲惨な状況となっていた。

「国王陛下！！大変です！我らが宮殿に侵入者がっ…！」

　質素な鉄の甲冑を着た兵士が慌てながら玉座に入る。

　玉座には気だるそうな表情の国王が1人座っている。いかにも若い青年の王だった。

「何だ。そういうのは俺じゃなくてカークとかエレナに…」

「全員……やられてしまいました！！」

　遮る兵士の言葉に驚く国王、眠たげな瞼を大きく広げ、目を瞠る。

　カークとエレナ。どちらも騎士団長だ。

　それを難なく討ち払ったというのか。

　焦った国王は急いで大広間へ向かう。

　扉を開け放つと、目の前には惨状が繰り広げられていた。

「な、何だ。これは……」

　普段は白を基調とした大広間がドス黒い血の海で染まっている。

　多くの甲冑騎士の亡骸の山の上に二つ、幾多の黒い棘槍に貫かれている男女の屍。

屍の男の方は足を、女の方は腕を毟り取られて絶命していた。

「なっ！？カーク、エレナっ……！」

　かつての仲間の凄惨な状況を見た国王は苦悶の表情を浮かべながら兵士に詰め寄る。

「どうしてだ、アイツらも俺と同じ転生者だろう！！」

「わかりません。ただ、この城に侵入者によって……」

「侵入者？その侵入者がアイツらよりも、強いという訳か！？」

「はい。黒いコートの男が一瞬で……」

「何だと……」

　青ざめる国王。

　カークもエレナも、この王都で名の上がるほど強い騎士として知られている。それは自他共に認めているほどに。

　それを秒殺？馬鹿な。そんな事があってたまるか。

　全身の血の気が引く。考えるほどに悍ましい。

　その時、国王に鈍痛が走る。

「何、だ……？」

　一体何が起きたのか。黒い刃先が国王の胸から飛び出している。

「まさか、王たる者が無様な姿を見せるとはな」

「き、貴様ぁ……！？」　

　甲冑の兵士が、黒剣で背後から国王を貫いていた。

「転生者が2人いたから、お前もそうだろうと思っていたんだが……どうやらハズレか」

「お、お前は……転生者狩り……？！」

　転生者狩り……それは転生者のみを狙った悪質な暗殺者。

　特異で尋常ならざる力を持つ転生者を殺す事が出来るという、謎の存在。

　その姿を見た者は誰もおらず、もはやお伽話にまで昇華されていたほど。

　国王はその彼の顔を見る事は叶わず、心臓を貫いた剣は引き抜かれる。

　更に転生者狩りは王の背中を十字に切り裂き、蹴り倒す。

　“転生者狩り”は倒れた国王の屍を見下ろして死体をいとも軽々しく蹴り飛ばした。

　死体は数回バウンドし、瓦礫の山の一隅に当たる。

「……」

　転生者狩りは兜を脱ぎ捨て、血で汚れた剣を床に突き刺す。

　転生者狩りは……ただの青年だった。色素を失った白い髪がステンドグラス越しの陽光に輝く。

「愚かなものだよ、本当に。だからこそこの世界は壊さなければいけない」

　そして山の様な屍を眺めた後、転生者狩りは律儀に大破した城門から出ていった。

——そして、現在に至る。

　次元衝突なる現象により、混沌と化した世界で——

　“転生者狩り”は逃げていた。