幕間 別世界にて〜始まりの種〜

———遡る事10年前。


 ここは、アストレア


 ここは大陸と幾つかの村を繋いでいる大規模な街であり、どの冒険者でも必ず初めて来る場所である。土地柄もあってか皆おもてなしを重んじている。


 おかげで今も尚この街は繁栄していた。

 その街角のパブの中で、男2人が酒を酌み交わしながら喋っていた。


「おい、またやられたらしいぜ」

「マジかよ。今週だけで9人目だぞ」

「これでの勢力が圧倒的に弱まっちまった」

「嫌だな〜あの王様、女と争い事ばかりにふけってばかりで俺たちの事なんにも考えてないから」

「馬鹿っ!近衛兵に聞かれたら殺されるぞ!」

「いいじゃねぇか。皆思ってる事だぜ?」

「いや、それでもな……」


「キャアアアア!!!!」


 外から甲高い悲鳴が2人の会話を遮る。

 あまりの驚きに思わず酔いが覚めてしまった。


「な、何だ?」


 男の一人が外に出ると、パブの前に人だかりができていた。

 そこには、柱に縛られたの死体が蝿に貪られていた。


「うわっ!惨いな…」


 死体の胸には赤いペンキの様なもので、

 [弱者救済]

 と書かれた白木の板が四方に釘を打って貼ってある。


「遂にココにも来たか」


後を追って来たもう一人の男が呟く。


「これってアレだろ?例の"転生者狩り"」

「そうかもな。この晒し方はアイツだ」


 転生者狩り……

 それは巷で噂になっている殺し屋の異名。 


 転生者と呼ばれる規格外の異能を持った冒険者達しか狙っていないので、その異名がついたらしいが、実際のところは定かではない。


 更に、残虐な殺し方と庶民に向けた転生者への反逆のメッセージで一部では"英雄"とか"庶民を護る者"などと言われ、弱者である庶民への救世主的存在として一部から熱狂的に信仰される様になった。


 しかし、当然ながら大半の人間はこの惨さを快く思わず、今でも犯人を見つけて捕まえようと必死である。


「なぁ」

「何だ?吐きそうになったのか?」

「いや、そうじゃなくてこの転生者狩りなら転生者達を何とかしてくれるんじゃないかって思って…さ」

「……」

「……」


 男達は黙って首無しの死体を見返した。

 蝿のたかるその猟奇的な死体が心なしかさっきより綺麗に見えた。




 今、この世界は荒んでいた。

 転生者狩りに触発されて王政を破壊しようとしている。


「規格外の力を持つ転生者は異端だ!!」

「この世に存在してはいけない!!」

「世界を滅ぼす災厄だ!!」

「転生者は死ね!!」

 死ね、滅べ、消えろ。


 誰が転生者で、誰がそうでないのか。

 彼らには分からない。

 だがそれでも人は動く。

 アストレアを中心に様々な街で暴動が起きる。


 クーデターが起きる。

 王侯貴族は転生者と見做され処刑されていく。

 

 人が死んでいく。

 死体が転がってもなお、その上で戦い続ける人がいる。


 例え、転生者彼らが天災と称される獣を討とうとも、悪辣非道な悪魔を殺そうとも、


 変わらない。未来は変わるはずがない。


 この世界はいよいよ終末へと進む。


 

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