第4話 ごちそうさまでした……え?
赤身のお肉は見た目よりもジューシーでしとりしているのにやわらかい。牛肉とは少し匂いが違う食べたことのないお肉は、不思議な食感がとても美味しい。
お肉の美味しさに感動していると、栗栖が今度は焼きたてのパンをサーブしてくれる。まだほんのりあたたかいパンは、お肉とよく合って最高だ。
無言で頬張っていると、厨房の方からちらっと
私の幸せそうな顔を見て、満足したように細い目を更に細めている。
イケメンに見られていると思うと、がっついているのがちょっと恥ずかしくなってくるなあ。
そういえば、私の横にもイケメン男子が居たっけ。
急に恥ずかしくなって、食べる速度をゆっくりお上品にふるまってみたものの、すでに後の祭りだった。
メインを食べ終わったあとは、ケーキが運ばれてくる。濃厚そうなガトーショコラとドライフルーツが入ったパウンドケーキに、粉砂糖が雪のようにふんわりかかっていて、しぼった生クリームとオレンジソースで皿が彩られている。
焼き立てパンが美味しくて、沢山食べてもうお腹はいっぱいのはずなのに、皿に盛られたケーキを見ると……胃が魔法にでもかかったように準備オーケーのサインを出してくる。
「っ、は~! しあわせ!!」
出てくる料理が全部美味しくて、これが三千円なんて信じられない。
三千円でこれが食べられるならまた来たい!!! ……もちろん仕事先が見つかったら、だけど。
ぺろっとたいらげ、ごちそうさまと感謝して手を合わせる。お皿を栗栖が片付けると、厨房から
「どうでした?
「ええ。こんな美味しいお料理を、私一人で食べるなんて何だか申し訳ない気持ちになっちゃいますね!」
「そんな褒められても何にも出ませんよ?」
「久しぶりに胃だけでなく心も満たされました。本当にお代はいいんですか?」
「ええ、お客様の笑顔が何よりの代金です」
「こんなに美味しくて凝ったお料理が食べられるのに、他の客が全然入ってこないなんて不思議です。私、またこのお店に食べに来たいです。今度はきちんと料金を払って。今は無職なので難しいですが、働き口が見つかったらぜひ!」
「なんだ、アンタ無職なのか?」
話に急に入ってきた栗栖が失礼な物言いを挟んできたので、慌てて
「わわ、なんて失礼な口の聞き方をするんや、この子は!!! すいません、板狩様。この子、悪気はないんです。まだ若者ということで許していただけませんか?」
「失礼って、コイツだって客の入らない店とか言ってんじゃんか!」
「いや、だからそれはウチの事情を知らんからで……」
「うふふふふ」
栗栖と狐崎のやり取りが軽快で、妙にツボに入ってしまった私は、思わず笑い出してしまった。
二人は笑い出した私を、ぽかんとした表情で見ている。
「ごめんなさい、お二人のやり取りがとても面白くて。すごく仲が良いのが伝わってきました。本当に素敵なお店ですね! どうして宣伝されないんですか? お料理の美味しさも、お二人のキャラクターも、絶対人気が出ると思うのに」
「ふふん、まあな。俺の見た目の良さはそんじゃそこらの人間では敵わないだろうからな!」
「ああ、もう! 栗栖くん。ホンマにもう……」
狐崎が頭を抱えながらため息をつく。
「宣伝をしないのは、ウチがあくまでも隠れ家的な店やからです。こうしてランチにお客様を特別招待してるんも、隠れ家にふさわしい方を選んでお呼びして常連になっていただこうと思ってるからなんです」
「そうそう、有名な政治家とかも来るぜ!」
「ええ!? そんなお店になぜ私が招待されたんですか?」
「それは、板狩様が今この店に必要と感じたからです。申し込みのメッセージを見れば、どんな人かなんてお見通しですよ」
そこまで二人と会話をし、私は意識がなくなった。
どうしてか分からないけれど、最後に出されたお茶を口にしたら急激な眠気がやってきて、そのまま眠ってしまったのだ。
はじめて来たお店で寝てしまうなんて、大失態にも程がある。
気が付いたのは、22時を少し過ぎた頃だった。
まだ頭がはっきり起きていない状態であたりを見回すと、昼間とは違い客が何組か入っているようだった。
目が覚めた私を見つけて、栗栖が近づいてきた。
「よお! 目が覚めたか!? よく寝てたな!」
「!!?」
寝ていたの言葉にびっくりして飛び起き、時計を見る。窓の外を見ると真っ暗で、そろそろ終電の心配をしないといけない時間だった。
「ごめんなさい! 私、まさか寝ちゃうなんて。お店の邪魔になりませんでしたか??? 本当に大変失礼を……! 今日はもう遅いので、後日改めて謝罪に来ます!」
起こしてくれてよかったのに、と恨み言が口から出そうになったのを飲み込んで、ひたすら謝った。
「ええんですよ。我々の
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