第2話 先生とは何者か
先生は私塾を開いていた。
学校が終わると多くの子供が集まり、先生の目の届くところで勉強したり遊んだりをする。自らの家を集会の場として提供しながら、子供らの面倒全般を見るのを仕事にしていた。
先生のやり方は、年齢が離れた子供たちをまとめ上げる……のではなく、自分たちでそれぞれ役割を持って生活をするよう指導するものだった。場を仕切るような先生ではなかった。基本的には宿題の面倒を見て、望む子には自主的な課題を出していた。
先生は一度に十数人を相手に指導をしていたけれど、いつも部屋だけでなく庭にいる子供にも目を光らせていた。何かあったとき、先生はまるでどこに誰がいるのか見えているかのように目当てのものを呼び出した。近くの子には普通の声で、庭先の子には大きな声で、間違えることなく声をかけていた。
兄はどの子供も先生を畏怖していると話した。暴力など決して振るわないし、脅したりもしない。けれど、眼力や言葉の重みが子供たちに圧をかけてくるのだという。「自分の良心に従いなさい」といつも言い、本当にそれが正しいと思っているのか、嘘はないのかと問うのだと聞かされた。
「先生がそういう目をしたら、俺らは逃げも隠れもできない。やましいところが見透かされている気がしてすごくおっかないんだ」
先生を怒らせないようにしろよと言われたが、もちろん怒らせてしまって私も何度となくそういう目には遭ったものだ。
先生は夜に他にも何か仕事をしているらしかったが、それについては兄も知らなかった。夜遅くまで灯りがついているとしか私たちにはわからなかった。
私塾の稼ぎだけでは余裕のある暮らしはできていないことも語ってくれた。確かに貧しくはあった。最初にあちこち見て気付いたように、家はあちこちが傷んでいた。台風が近づく度に、私たち二人は先生の後ろに板と釘を持って歩いて回った。服も季節ごとに三枚以上は持っていないし、下着だって三日で前のものが回ってきた。靴下も薄い。けれどひもじい思いをしたことだけはなかった。
先生が私たちのことを考えていてくれたこともあるだろうし、子供たちの親が季節のものをよく差し入れてくれたおかげでもある。春にはキャベツ、菜の花、そら豆、アスパラ。夏にはトマトやキュウリ。秋にはにんじんやジャガイモ、タマネギ、米まで。そう来るのだからカレーの回数は当然、多くなる。私たちにはそれはうれしかったし、先生もゴロゴロともらえる野菜にはにんまりしたものだった。
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