2.伊勢くんが書いた小説「ダークムーンを救え!」

 ダークムーンが息たえる時、この世界は崩れさる……。

 こどもの頃、お母さんが読んでくれた本の中に、そんな言葉があった。


「ダークムーンって、なんや?」

「なんやろうねえ……。これはねえ、私がこどもの頃からあるお話なんよ」

 挿し絵を見ても、ダークムーンがどんな姿をしているのかは分からなかった。ただ、黒いもやのようなものが大きく描かれていた。

「くずれさる。こわれる、てこと?」

「そうやね」

「おそろしいなあ」

「これは、お話やからね。ほら。あったかくして。

 こわかったら、ミハルかミカの手でもにぎってなさい」

「えっ?」

「わたしは、いい。はずかしい」

 ミカちゃんには断られた。

「ミハルにつないでもらって。ええよね?」

「うん。ええよ」

 おれのとなりで寝そべっていたミハルちゃんが、にこっと笑って、手をのばしてくれた。だからおれは、その手をぎゅっとにぎって、安心して眠りについた。

 おれが六つかそこらだった頃の、幸せな記憶だ。

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