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朝姫 夢
第1話 ここはどこ?わたくしはだれ?
『ここはどこ?わたくしはだれ?』
呟いた言葉が、どこか儚く消えていったようにも聞こえましたけれど。
それよりも、です!
ある日目を開けたら、なぜか見知らぬ部屋の中。
一体ここはどこなのかしら?そして本当にわたくしは誰なのかしら?
あとなぜか目線が高いような気がするのは……気のせい、なのかしらね?
(困ったわ。何一つ、思い出せないなんて)
天蓋付きのベッドは既にカーテンが開いていて、中に誰もいないということは部屋の主は起きているはずで。
外から入ってくる明るい日差しが、まだ一日が始まったばかりなのだと告げている。
(調度品は豪華だけれど、とても品の良いもので揃えられてあるあたり、このお部屋の主のセンスはとてもいいと思いますわね)
そんな風に自分の名前もここにいる理由も思い出せないまま。多少観察しつつ、ただぼんやりと辺りを見回していたら。
(あら、このお部屋の主かしら?目が合いましたわ)
肩に届くか届かないかくらいの、陽に透ける金の髪。
鮮やかな青の瞳は、今は驚きからか見開かれていますけれど。その奥はどこか意志の強さを感じさせますわね。
「君は……?一体どこから入って、そしてなぜ体が透けた状態で浮いている?」
それにしても、男性から見上げられるなんて。この方成人しているようにお見受けしますのに、いったいどういう――――
(……透けた状態で、浮いている?)
言われて自分の体を確かめてから、ようやく自分の状態に気付きました。
『あら本当、透けていますね。それに浮いていますわね』
「……今、私がそう告げたばかりなのだが?」
困惑気味に伝えてくる男性は、どこか警戒しているようですけれど。
そうですよね、警戒しますよね。わたくしだって警戒しますわ。
『もしかして、わたくし不法侵入者かしら?』
「もしかしなくても、不法侵入者だな」
あら、まぁ。困りましたわね。
まさか見ず知らずの、しかも男性のお部屋に忍び込んでしまうなんて。
『わたくしったら、破廉恥ですわね……』
「いや、破廉恥とかそういう問題なのか?」
『だって男性のお部屋に、無断でお邪魔してしまうなんて。淑女として恥ずかし――』
「どうした?」
『……いえ。わたくし、淑女ですよね?』
この目で見える範囲では、どうやらドレスを着用しているようですので。おそらくは女性だと、そう思っているのですが。
なにぶん顔が確認できないものですから、確信が持てないのです。
「その格好で女性でなかったとすれば、違う意味で驚きだな。可能性がないとは言わないが」
『まぁまぁ!どうしましょう!確認する方法がありませんわ!』
「そこに鏡がある」
『あら。ご親切に、どうも』
示された先には、確かに大きな姿見が。
親切に教えて下さった男性にお礼を述べて、鏡の前に歩み……あら、足を動かさなくても移動できますのね。便利ですわ。
『……あら?』
「どうした?」
『あの……わたくしの姿、映っておりませんの』
姿見の中に見えているのは、この部屋の調度品ばかり。
目の前に立って……いえ。浮いているはずのわたくしの姿は、これっぽっちも映してはくれていないのです。
「それは、また……」
『困りましたわねぇ』
これでは何も確認できませんわ。
「声と顔は女性だが、ドレスに違和感でもあるのか?」
『いいえ、ありませんわ。ただ自分の名前すら分からないので、困っておりますの』
「な!?それを早く言え!!」
あら、怒られてしまいました。
「いや……いやいや、待て待て。どうして私は、普通に会話をしているんだ……?」
しかもお一人で何か、ブツブツと独り言を呟いていらっしゃいますけれども。
(本当に、困ったわぁ……)
鏡に映らないなんて、つまりは幽霊なのではなくて?
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