第9話

 パッと映し出された映像には、血だらけの男の身体にしがみつき、男のモノを加える女の姿、そしてその光景を人間の目とは思えないような目付きで見る子どもの姿。


「な、なんだよこれ」

「貴方の母親はネクロフィリアよ」

「ね、ネクロフィリア?」

「死体性愛よ」

「それは覚せい剤打ってるからとか」

「いいえ、この映像は貴方が7歳。そう、松本駅が無くなった年の映像なの」


 俺の身体が7歳であれば、この光景を覚えているはずなのに、この光景を初見のように感じていた。

 ありえない、そう思ったが、今までの映像全てにおいて初見のように食いついていたことから、俺は今7歳じゃないんだと思い始めていた。


「気づいたのね。貴方は7歳じゃない。そして次の映像が松本駅が無くなった理由になった映像よ」


 再び映像が流れて、駅構内。本当に駅構内なのかと思うほどに、物凄く静かで人気が無かった。バッと変わった場面には、恐ろしい光景が。


「お、おいこれ」

「えぇ」


 母親である女が駅構内のある場所、そう駅員室の男たちを全員殺し、その男たちの死体を眺め楽しみながら、男のモノを上からも下からも加え込み警察が到着しても尚暴れ回っていた。


「これが、貴方の本当の母親」

「じゃ、じゃあ今まで居た家族は?」

「……偽物」

「う、嘘だろ?」


 女は目線を下に落とし顔を横に振った。

 俺はただ絶望の縁に落とされた。


「な、なぁ。いいか?」

「何かしら」

「俺は。誰なんだ?」

「ここまで見たのだから、言うわね」

「……おう」

「あなたの名前は【りく】2000年生まれ今年22歳の青年よ」

「りく……」


 女から再び伝えられた名前と、そして初耳である自分の年齢。俺はただ下を俯いていると女は恐ろしいことを言い始めた。


「さて、次からの映像が欲しければ、私の追撃から逃げて?」

「は、はぁ?!」

「貴方の拘束を外し、1時間私から逃げ回って。1時間後貴方が死んでいなければ、私に捕まっていなければ、続きの映像で私の正体、私の謎、そして私が何故貴方をここまで酷い目に合わせたのかを教えてあげる」


 突如として鬼ごっこの提案が出され、こんな状況でどこに逃げろというのか、当分の間身体を自由に動かせていない俺が捕まらないわけがなく、それを分かっていてこの提案なのかと彼女の人間性を疑った。


 だが今更ここで逃げ腰になるわけもいかず、俺は女の提案を受け入れた。


「あぁいいぞ」

「よし。始めましょう」

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