第14話
翌日から俺は会社にマスクと帽子を付けて行くことにしていた。できるだけ顔を見られたくない、そして彼女と距離をとるために他人のフリをしようとしていた。
会社に到着し、自分の部署まで深く帽子を被りまるで不審者そのものの容姿だったが、致し方ないと割り切り、部署まで安全に到着した。
自分のデスクに座り帽子とマスクを取り仕事の準備に取り掛かると、朝いつもなら始業の挨拶などしないはずなのに、部長から始業の挨拶が始まった。
「今日から私たちの部署に移動することになった子だ。みんな仲良くしてあげてね」
部長は新しく移動してくる子の肩にポンポンと手を置きながら言った。
俺は部長の横に立つ彼女の姿にただただ驚いた。移動してきたのは元カノだったからだ。なにかの偶然だと信じたかったが、部長が俺が教えていないことを知っていたこと、【偶然】彼女と同じ会社だったことに疑問を覚えた。
【ありえない】とまで思っていた。
妹の手引きなのか、彼女なりのストーキングで得たものなのか、俺は震えが止まらなかった。
そして更に俺に追い打ちをかけるように、彼女の席が俺の隣になった。
すると部長は俺と彼女の真ん中に立ち言った。
「俺くん、彼女も新しい部署での仕事だから分からないことあると思うから教えてあげてね」
「……はい。部長」
「うむ。期待しているよ」
部長はニヤッと笑いながら立ち去った。彼女は立ち上がり部長に一礼しながら、自分の椅子に座ってPCにのめり込んだ。俺も彼女を気にしないように自分の仕事をこなすために、普段よりも集中しPCに釘付けになっていた。
時間が経ち、徐々に定時で上がる社員が増えてきた頃のこと、部長は俺のデスクに来ていた。それも怒り顔で。
何かやらかしたかと不安になっていると、部長は俺のデスクの角をバンッと叩きながら言った。
「君少しは定時で上がらんか!」
「……へ?」
「呆れた。君の残業時間が相当な時間になっていると言っているんだ。私たちはできるだけ社員を残業させたくない。限りなくホワイトで居たいんだ。分かったらさっさと帰る!」
「あ、はい」
「うむ。お疲れ様」
「あ、ありがとうございます」
俺は部長が久々に怒っている姿に驚いたことと、自分が残業時間などの管理を出来ていなかったことに情けなさがあった。俺はデスクから荷物を持ち、夕方17時に会社から出る。
夜の街ではない夕方の主婦がタイムセールを狙いにくる時間に上がれたことで、久しぶりに買い物をして自炊をしようとスーパーへ向かった。
☆☆☆
「邪魔者は居なくなったね」
「……またですか」
「おや、反抗的だね」
「私はもう部長のいいなりになんかならない」
「いいのかな。君が私にレイプされて弱みを握られて、俺くんを酷く振ったことを言っても」
「部長も同じではないですか。私は確かに俺くんをこっぴどく振りましたが、彼は私がHしたことによって別れたなんて知らないはずですから」
【俺】が帰ったあとの会社では再び彼女と部長の争いが起きていた。部長は彼女の弱みを握り、彼女もまた部長の弱みを握っている。
だが部長は全く動じず、むしろそんな彼女の反抗的な姿にそそられていた。
「……君は徹底的に壊してあげるからね」
「……キモイんだよハゲオヤジが!」
彼女はそう啖呵を切り、自分の荷物を持って走りながらエレベーターに乗り会社の外へ出た。
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