第8話
彼女は血が流れでる手を必死に抑えながら、スタンガンをもう片方の手で持とうとしていた。
俺はそれに気づかず、妹に刺されないようにそして警察を呼べるようにスマホを取る事に必死になっていた。
「……どけろ!」
「お兄ちゃんこそそのてをどけてよ」
「……お前何をやっているのか分かってんのか!」
「お兄ちゃんこそ」
「……!!」
妹の持つ包丁の刃先が徐々に俺の手の甲を刺そうとしてきていた。俺はそれに屈することなくただ一心不乱に目の前にあるスマホを取ろうと頑張っていた。
「早く離せよ!」
「……お兄ちゃんこそ!」
俺は妹に負けまいと、彼女が居ることを忘れて二人の世界をつくりあげてしまっていた。
すると後ろからバチバチッッという音が鳴る。俺はバッと後ろを振り向くと彼女はスタンガンを構えながら痛みから、そして怒りから顔を顰めてこちらを睨んできていた。
その睨みは俺にも向かっていた。
「このガキ……!」
「あら。あんた執念深いんだね」
「……俺さんの邪魔をすんなよ!」
「へー。今警察呼んだら一番まずいのはあんたでしょ?」
「は?」
「私はあんたの言う通り13歳以下だし、まず警察に捕まることは無いよ。でもあんたはどう?」
「このガキ……」
「ほら。さっさと消えろよ!」
妹は彼女に激を飛ばした。
俺は何故か彼女の傍に寄り、偶然近くにあった布で怪我した手を止血するためにギュッと強く布を縛った。
「俺さん……」
「帰れ。出来るだけ怪我した方の手を隠しながら」
「……」
俺を睨みつけていた彼女の顔は緩み、完全に恋する乙女へと変わっていた。俺は妹から彼女を護るためにわざと妹が狙いにくいように彼女を全面的に庇うような姿勢をとった。
彼女はそれに安心したのかスタンガンを俺の家に置いて帰って行った。
「……あとはお前だけだ」
「帰んないよ?」
「帰れ!」
「お兄ちゃん。愛してるんだよ。私は」
「お前何者だよ……!」
「どういうこと?」
「お前の今の包丁投げだったり、変に詮索能力の高さ。おかしいだろうが!」
「……ただの10歳だけど?」
「帰れよ!」
俺は気づけば恐さから、そして自分を護るために妹の顔に拳を何発も入れていた。妹が血反吐を吐こうと歯が折れようと関係なく、ずっと殴っていると妹は意識を飛ばしていた。
「……お、お前が悪いんだ」
妹はピクリとも動かず、完全に意識を失ってしまっていた。俺は恐る恐る妹の心臓に手を当てると、まだ動いていたことに安堵していた。
本当は死んで欲しいはずなのに。
俺はその日何故か妹をベッドまで運び、寝かせていた。
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