戦闘

 遡ること数時間前、リリーナスに帰ったレインはマルナが誘拐されたことの他に、行方不明になっていた村人たちが見つかったと知り、その場にいたチハたんとリュンテとシャーリスだけをつれて、その村人の元へと向かった。


 向かった先で村人たちは「二人の少女に脅されて洞窟まで連れていかれた」と言い、これでこの事件の犯人及びマルナを誘拐した犯人、そしてそのアジトの場所も分かった。


 その村人たちを安全にリリーナスの街まで送った後、洞窟に急行、そこで村にいた姉妹と相対した。


 一応最初は話で決着を付けようとしたが姉妹は応じず攻撃を仕掛けてきたため、やむを得ず戦闘に発生、連携を取らせないために姉妹を離れさせた。


「くっ……!!」


 『ギュンギュン』と少し触れただけでも致命傷になりそうな音をたてながら飛来してくる剣たちを、なんとか反射でさばく。チラッとチハたんの方を見たら、チハたんが小さくなっているかつ高速で回避しているようで、地面に無数の剣が刺さっている。


「あははっ♪ 逃げてるだけじゃかてないわよぉ~!」


 なおも空中で両手を広げて魔法を発動させ続ける少女、リーチェは声高らかに笑っている。対してこちらは剣をさばくか避けるかで精一杯で、口を動かす暇もない。


 そんな地獄のような時間が5分ほど続いたころになぜかリーチェの攻撃が止んだ。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 全く剣道や剣術などした事すらもない俺が、ここまで四方八方から飛来してくる剣たちをさばき続けれたのは奇跡に近いが、すでに体は限界に近く、疲労で額に大粒の汗が湧き、肺も過呼吸で苦しいし、腹も腕もちぎれるように痛い。


 チハたんは相変わらず元気のようだが、ここまで履帯を酷使し続けていたらいつ壊れてもおかしくない。


「あらぁ? もう限界かしら? じゃあ次はこれよぉ~」


 手のひらを地面に向けたまま腕をクロスし、唱えた。


「──操りメネティレイト人形・ゴーレム!!」


 両腕を広げる。すると洞窟に落ちていた石や岩がそれぞれで集まり始め、それらは次第に人の形に集結した石の人形ストーン・ゴーレムになりその数は数え切れず、それらはたちまち俺達を囲んだ。


「数が多い……!?」

「ご安心を、すべて私が掃討してやります!!」


 というとチハたんの主砲が火を噴き、近くの石の人形ストーン・ゴーレム二体を粉砕する。


「たかが岩ごとき粉砕できないわけがありませんでしょう!!」


 だがチハたんが粉砕された岩は、バラバラになったのにも関わらず動き出し、勝手に石の人形ストーン・ゴーレムに戻る。


「なにっ!!??」


 予想外の出来事にチハたんは別の方向へ動かしていたのをやめ、復活した石の人形ストーン・ゴーレムに戻した。だが後方にいた石の人形ストーン・ゴーレムに蹴り飛ばされ、囲いの外まで飛ばされる。


「ち、チハっ……!!」


 蹴り飛ばされたチハたんを石の人形ストーン・ゴーレムがすぐさま包囲する。


 絶体絶命だ。ゴーレムは破壊してもすぐに復活するし、包囲されて逃げれる隙もない。


「あははっ♪ ただの石でも魔法かけたらこんなにも厄介になるのよぉ~? たとえ一人個人が強くってもねぇ数の多さには勝てないのよぉ~! ──意識カンシャンス吸収・ドレイン


 リーチェが俺の頭に触れ、俺の意識は遠のいていく。


──────────


 洞窟の入り口付近ではリュンテとシャーリスがルーチェとの戦闘を繰り広げていた。


「まったく……! 倒しても倒してもきりがないわ……!」


 何十体目か分からない樹木の人形ウッド・ゴーレムを倒し、それがまた復活する姿を見てリュンテは毒つく。


「ね♪ ね♪ 凄いでしょ? 私の樹木の人形ウッド・ゴーレムちゃんたち凄いでしょ?」


 楽しそうな笑みを浮かべながら問いかけてくる。


「はやく倒して進まなければ……」


 ──そうしなければレイン様達が危ない。


 シャーリスは焦る。なぜなら彼女は洞察能力インサイト・スキルを使って皆の思考を読み取ることができるため、皆の状態や思考が分かる。


 だからそれを利用して1度ルーチェの思考を読み取ろうとしたが、不思議なことにルーチェやリーチェにスキルが反応することがなかった為、今はリュンテとレインとチハの思考とリンクしている。


 そのため姉妹のうちどちらか1人を攻撃しようともダメージにならないのも分かっている。だからこそレイン達と合流し、同時攻撃をしなければならない。


 だが操りメネェティレイト人形ゴーレムに進む道も引く道も遮られてしまい、レインの元に駆けつけることも、街に戻って助けを呼びに行くことすらもできない。


 それにシャーリスはもともと戦闘に不向きで、魔法も 中級の回復魔法程度しか使えない。そのためシャーリスを守りながらリュンテは戦わざるを得ず、得意の突撃ができない。


「──ハアァァァ!!」


 剣に魔力を載せた薙ぎ払いで、とりあえず周囲を囲っていた樹木の人形ウッド・ゴーレム数体を破壊する。もちろんまた復活するのだが、それまで時間が稼げる。


「ごめんなさい……ずっとリュンテ殿ばかり戦わさせてしまって……」

「そうよ。私ばっかり戦ってても勝ち目はないしジリ貧よ。」

「…………はい……」


 リュンテが半分呆れたように役に立っていないシャーリスに文句を言い、シャーリスは目を伏せた。


「あんたほんっとに馬鹿ね。戦いもせずずっっと隠れてるだけって。」

「………………はい……」


 リュンテの厳しい言葉に、シャーリスは顔を伏せる。それを見たリュンテは「はぁー……」とため息を漏らし、『バチンっ!』とビンタをする。


「あんね、せめて助けを呼ぶとかしなさいよ。あんたのスキル使って。」

「……で、でも……私のスキルじゃ人の思考を読み取ることしか……」

「そうあなたがた思い込んでいるだけじゃないの? 私だって自分が最強だって思うことで強くなったんだからね」

「え……?」


 そう、今はリリーナスでも最強格と言われるリュンテも元々強かったり、特別才能やスキルを持っているわけではなかった。今の強さを手に入れたのは己の鍛錬はもちろん、さらに自分を強いと思うことで自信を持ち、その確固たる意思をもって強くなった。


 ちょー簡単まとめると、大和魂と本質的には同じである、


「だからシャーリス、あんたも勝手に自分の力を決め付けたらダメだわ。自分の力を弱いと思った瞬間その可能性は死ぬのよ。だから絶対に自分の力を弱いと思わない。シャーリス、自分自身のスキルの力を信じなさいよ!」

「自分の力を信じる……?」

「その通り、分かったらさっさと援軍呼びなさいよ。私が最強でもそろそろ飽きてきたわ」


 そう言うとリュンテは復活した樹木の人形ウッド・ゴーレムの方に突撃していった。


 ──


 シャーリスにとって、これまで掛けられたことも無いし思ったことも無い言葉であった。それに何故か今だけはこの言葉に説得力があった。


 シャーリスは目をつむり、周囲の情報への意識を一切なくし、己のスキルだけを意識する。


 リュンテは自分のスキルを、力を信じろと言った。だからシャーリスも自分のスキルを信じた。


 もっと上の力を使えると信じる。例えば、人の思考がわかるだけではなく語り掛けることができるような力を。


「……やればできるじゃない!」


 するとシャーリスの体を水色の光が包んだ。それを横目で見たリュンテはボソッと呟く。


 シャーリス自身はその発光に気づくことはなかったがスキルの名前が変わり、新たな力を得たことを知った。


異心伝達オペレーター……!?」


 ──本当にできましたね……。ありがとうございます、リュンテ殿。


 かならず役に立って見せる。例えそれが他力本願であってもかまわない。そうすることでリュンテやレインやチハの命を救えるのだから。


 シャーリスは再び目を閉じ、ある人物に自分の意思を伝達する。


「──ルーカス殿! すぐにこちらに援軍を要請します! レイン様たちのお命が危ういのです!」


 シャーリスはルーカスの意識へと語り掛ける。残念ながらちゃんと伝わったすべは無いが、次の瞬間目の前にルーカスともう一人、エリンナが現れた。


「申し訳ございませんシャーリスさん。言われるまで気が付きませんでした。」

「…………いえ。私はただ、助けを呼んだだけです」


 ルーカスとエリンナは別に近くに来ていたわけではなく、ほんとにシャーリスの援軍要請を受けてから街を出てこの洞窟まで駆けつけた。


 所要時間1秒以下。ルーカスの魔眼とエリンナのスキル時止鍵主タイムズ・マスターをふんだんに使った荒業によってなしえたことだ。普段こんなことしないが緊急時なのでやむを得ない。


「とりあえずこの周りにいる奴を倒しますね。」

「き、気を付けてください……! この人形ゴーレム達は倒してもすぐに再生します!」

「わかりました」


 ルーカスは「いくぞ、エリンナ!」と意思なき瞳のエリンナに囁き、それに答えたようにエリンナは剣を抜いた。


 そして二人がそれぞれに足を踏み込んだ瞬間、周囲の樹木の人形ウッド・ゴーレムが一つ残らず切断、破壊される。それはルーカスの魔眼とエリンナの時止鍵主タイムズ・マスターによるものだ。


「ん? ん? いつのまにか二人増えちゃって──」


 続く言葉が発せられることはなかった。ルーカスがルーチェの首を切断したからだ。


 しかし、普通なら動かないはずの口はまた動き出す。


「うぅ~ん残念だったねぇ! 人形ちゃんは倒されちゃったけど私たちはどれだけきざまれても死んだりしないんだからねぇ!」


 切断された首を拾いながら──いや拾われながら言う。


「ねぇねぇどんな気持ち? もしかしたら~とかこれで勝てる~とかの望みを打ち砕かれたときの気持ちぃ!」


 勝利を確信しているルーチェは声高らかに言った。


「あははっ♪ もっと絶望の淵を教えてあげるねぇ! ──絶望の希望デスペアー・ドリーム!!」


 唱えると同時に辺りが真っ赤に染め上がり、空には紅の雷がひしめき合っている。


 まさに世紀末といった感じだ。雷は電気の類で速度は光速、それに剣は金属だから斬っても斬れずに威力が伝わる。それも上から無数にだ。


 だがその絶体絶命の事実に怯え怯む者はいなかった。ある者は己のスキルへの信頼と自信。ある者はそもそもの感情を持たない。ある者は自分なら勝てるという、精神論的な自信を持っていた。


 そして黄色い髪をしたある者は絶対に死なないと確信していた。それは三人の剣士への信頼であり自身でもあった。だから彼女は目を瞑り、主君の意識に語り掛けた。


「1分後、総攻撃!!!」


 その伝達は近くの三人と一両の戦車にも伝わり、みな頷いた。

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