2
悟さんの部屋についた。
部屋の中はあったかくて、ほっとした。
「飲みもの、ほしい?」
「ううん。今は、だいじょうぶ」
コートを脱いでいたら、悟さんが木のハンガーを持ってきてくれた。
「ありがとう……」
「かけておく」
そのまま、持っていってくれた。
悟さんが、かわいいスリッパをだしてくれた。お礼を言って、足を入れた。ボアがあったかい……。
リビングの床に、小さな加湿器が置いてあった。白い煙みたいな蒸気が、ぼわっとでてる。前に来た時には、なかった。買ったのかもしれない。
「座ろうか」
「うん」
ソファーに、並んで座った。
「あのね。紗希ちゃんが、誰か、いい人いませんかって」
「……え?」
「彼がほしいんだって」
「君たちって……。それ、俺に聞くようなこと?」
「だめかな……」
「だめっていうか。まあ、いいけど。
どういう男がいいの?」
「まじめな人がいいって」
「うーん」
考えこんでしまった。
わたしは、悟さんの顔を見ていた。もう、すっかり見慣れてしまった。
はじめて会った時に、あれっ?となったことを覚えている。はじめて会うような感じがしなかった。わたしがじっと見ていると、悟さんもわたしを見た。
たぶん、あの時から、なにかが始まっていたんだと思う。
「兄貴がいるけど。いや、でも……」
「お兄さん、いるの?」
「うん。両親が再婚して、連れ子どうしだから、血はつながってない」
「どんな人?」
「つかみどころがない……。ちょっと、変わってるよ。まじめなのは、確かだけど」
「紗希ちゃんに、合うと思う?」
「どうかな。たぶん、女性とつき合ったことがない」
「えっ……」
「今、29才」
「五才上……」
「離れすぎかな」
「わかんない。会ったり、できる?」
「話してみるけど。紗希に合うかどうかは……」
「お名前、聞いてもいい?」
「いいよ。誠実の誠で、
「誠さん……」
「そう」
寝室で、悟さんとした。
冬にするのって、寒いけどあったかい。わたしが言った言葉に、悟さんが笑った。
「そうかもしれない。もう、着ていいよ」
わたしの下着と服を渡してくれた。
上の下着は、うちから持ってきたタンクトップだけにして、フリースのパジャマを着た。
「お風呂は?」
「入ったの。あとで、顔だけ洗いたい」
「そうか。俺は、入ってくる」
下着姿の悟さんが、外していた眼鏡をかけ直す。ベッドから下りていった。
わたしは、布団の中で、うとうとしていた。
幸せな気分だった。
悟さんと一緒にいると、安心できる。紗希ちゃんも、そうだったのかもしれない。
わたしたちも、いつかは、それぞれべつの場所で暮らすことになるんだろう。紗希ちゃんは、さびしがるかもしれないけど……。
ベッドが沈む感覚があって、目がさめた。
悟さんだった。
「ごめん。起こした?」
「ううん……。ねえ、悟さん」
「うん?」
「結婚って、考えてますか?」
「なに、急に……。なんで、敬語?」
笑ってる。
「わかんない」
「考えてるよ。このまま、俺と暮らしてくれる?」
「……えっ」
「入籍は、早い方がうれしいな。紗恵ちゃんの仕事は、どっちでも。続けてもいいし、辞めてもいい」
「えっ、えっ?」
「びっくりした?」
「う、うん……」
軽い気持ちで聞いたのに。悟さんの中では、結論がでていたみたいだった。
「結婚したい?」
「うん」
「そう……」
気が遠くなった。ずっと先のことみたいに、思っていたのかもしれない。
「嬉しそうじゃないな」
「え、ううん。先のことだと、思ってたの」
「いつかは、したいと思う?」
「いつか……? わかんない。少し、考えさせて」
「わかった」
「ここって、わたしが住んでも平気なの?」
「うん。管理会社に報告すれば」
「そうなんだ……」
プロポーズされてしまった。プロポーズ? ほんとに?
今日は、バレンタインにあげるチョコをどこで買おうかなって、紗希ちゃんと話してたのに。ぜんぜん別のことで、頭がいっぱいになりそうだった。
「歯をみがいて、ねる……」
ベッドから下りたら、足がよろけてしまった。悟さんが、慌てたように、後ろから下りてきた。
「大丈夫?」
「う、うん」
「一緒に行こう」
手をつないでくれた。うれしかった。
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