第16話
翌朝、俺たちは二人で帰った。まずはサークル部室に行った。祐輔と一緒に入って来た俺に気がついて、弘樹が駆け寄って来る。
「お前、どこ行ってたんだよ」
「ゴメン」
「でも、無事に帰って来てくれてよかった」
弘樹はうっすらと涙を浮かべている。
美紀先輩は祐輔を見つけるなり、抱き締めた。
「祐輔くんっ。心配したんだから」
「すいません」
そう言いながらも、ヤツは心なしか鼻の下を伸ばしている。これがおっぱいの威力というものか。たく、しょうがねぇな。
わいわい話をしていたら、勇人が祐輔に気が付いて泣きながら謝ってきた。
「祐輔っ、ゴメン。ボク、先輩が言う通りホクロはちゃんと見えてなかったのにお前だって決めつけた。でも、よく思い返したらあれはお前じゃない」
周囲にいた人の中から「ガセかよ」、「勘違いで人に迷惑かけるなよ」という声がする。
勇人は顔を真っ赤にしている。だが、何も反論しない。美紀先輩は勇人の側にいって、ハンカチを差し出した。
「自分の間違いを人前で認めることって、とても勇気がいることだと思う。勇人くんって誠実なんだね。見直しちゃった」
「美紀先輩ぃ」
美紀先輩のフォローで、勇人のこわばった表情がほぐれた。
「勇人、オレも気にしてないよ」
祐輔もうんうんと首を振る。勇人はカバンをあさって、取り出した紙袋を祐輔に差し出す。
「お詫びといってはなんだが、これを受け取ってくれ」
祐輔は受け取って中をチラッと見て、にやけた笑みを浮かべた。
「勇人、お前わかってるな。これを渡されたら許さない訳にはいかないじゃんか」
「ありがとう。心の友よ」
そう言うと二人で抱き締めあった。
部室を後にして二人で帰る時、俺は祐輔に尋ねた。
「祐輔、さっきの勇人のヤツはなんだったんだ」
「見ればわかるよ」
祐輔は紙袋を手渡してきた。中に入っていたのは、あのアニメのファンなら誰でも知っている限定レアグッズだった。
「これもらえるなら俺も失踪しようかな」
「じゃあ、その時はオレが見つけるな」
二人の間に自然と笑いが起こる。
続いて、リョウガさんたちだ。俺たちはいつものカフェへ向かう。
リョウガさんは王様のように片足を膝にのせ、片ひじをついてソファに身体を沈めて待っていた。タクマさんも一緒だ。
「いやぁ、ショウくん。今回は随分と面倒を掛けてくれたね」
リョウガさんは、顔は笑っているものの、目が笑っていない。
「すいません」
ひきつった表情で頭を下げた祐輔は、石になったかのように微動だにしない。
「君もこの業界で働いている端くれとして、無断キャンセルの罪の重さは知ってるよね」
「はい」
「ショウがいない間、他のメンバーが一生懸命フォローしてくれた。幸いお客さんも理解してくれたから大きな問題にはならなかったけど、責任は取ってもらわないと示しがつかないんだよね。ということで、君、クビだから」
「ですよね」
「あと、今回は君を探すために上にもかなり動いてもらったんだよね。だから、追加でペナルティを課さないといけない」
俺は思わず口を挟む。
「俺もお二人に頼りました。償いが必要なら俺も返さなくちゃいけません」
だが、リョウガさんは俺を静止するように手を出す。
「貴史くん、僕たちみたいな世界の住人に軽々しくそんなことを言っちゃいけないよ」
どういう意味だろうか。まさかペナルティってとんでもないことなんじゃ。
さっきまで頭を下げたままだった祐輔も、顔を上げた。それを咎めるようにリョウマさんは言う。
「ショウ。頭上げていいなんて、僕言ってないんだけど」
「すいません。でも、全部オレが悪いんです。責任もオレが取ります。だから、貴史は許してやってください」
「へぇ。何でもするの?」
「やっ、やります」
「そう」
リョウガさんはテーブルの上に置かれたカップを取り、ゆっくり口をつけた。俺たちの顔を見てクスッと笑い、言葉を続ける。
「君が急に来なくなって、お客さんにもかなりご心配を掛けたんだよ。中にはショウを探すのにご尽力してくださった方もいる。僕はその方々に直接お詫びを言うべきだと思うんだよね」
「オレもそう思います」
「だから、今日から一ヶ月間卒業イベントを開く時間をあげるよ。ひとりひとりに心を込めたおもてなしをしてほしい」
「わかりました」
「もちろんタダ働きだとコンプライアンスに反するからね。報酬は払う。精一杯がんばるんだよ」
祐輔はきょとんとした顔でリョウガさんに聞き返した。
「えっ? それでいいんですか」
「うん。もっと厳しいのがよけりゃ、僕はそれでもいいけど」
「いいえ。ありがとうございます」
「じゃあ、細かい説明はタクマよろしく」
そう言って、リョウガさんは立ち上がるとお店を出ていった。
残されたタクマさんは持っていた書類に目を通しながら、説明をはじめる。
「という訳で明日からホームページで告知をするので、よろしくお願いします。君を待っていたお客さんはいっぱいいるので、極力出勤してほしいです」
「了解しました」
「とはいえ、学業は優先するようにしてください。これはこちらの意向なので、きちんと守るように。あと、君はこれまであまりお店で待機していなかったからよく知らないとは思うけど、他のメンバーにはお礼を言っておいてくださいね」
「本当にそれでいいんですか」
「ええ、もちろん。リョウガも私も応援してますから、君もちゃんとなすべきことを果たしてください」
タクマさんはメガネのブリッジを人差し指で上げる。
「ただし、この程度で済んだのはたまたま運が良かっただけです。それを忘れないように」
「はい」
それから、祐輔は休んでいた時のブランクを取り戻すように授業に出席しつつ、バイトにも極力出勤していたようだ。正直、大変そうな時期もあったが、一ヶ月間無事に役目を果たした。
キャンペーン中はいろいろなお客さんが来てくれたらしい。学費として足りなかった分を補うには充分過ぎるくらいの実入りはあったようだ。
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