第51話

 私とアンドレさんは、ほかの三人の兵と共に、町を歩いていた。


 散歩をしているわけではない。

 目的の場所があって、そこに向かっている。

 その場所は、ヘレンと殿下が住んでいる家だった。


「ここですね……」


 目的地に到着した。

 いよいよ、この時が来た。

 私は、深呼吸をする。

 そして、玄関のドアをノックした。

 しばらくすると、殿下がドアを開けて、不機嫌な顔を覗かせた。


「なぜこんなところに来たんだ? 私は貴様らに用などない。今すぐ帰れ」


 殿下は吐き捨てるように言って、扉を閉めようとした。

 しかし、アンドレさんが素早く足を挟んで、扉は閉まるのを防いだ。


「……何の真似だ?」


 殿下がアンドレさんを睨みながら言った。


「あのぉ、殿下、私たちも、あなたには用はありません。用があるのは、ヘレンの方です。失礼しますね」


 私たちは殿下を押しのけ、家の中に入った。


「おい! 貴様ら! どういうつもりだ!? 平民の分際で!」


 殿下は暴れようとしたみたいだけれど、すぐに兵たちに取り押さえられた。

 それでも喚いているので、兵は彼の口を押えた。


「お姉さま……、どうしてここに……」


 椅子に座っていたヘレンは、突然訪ねてきた私たちを見て驚いている様子だった。


「どうして……、ですか? 何か、心当たりはありませんか?」


 私は彼女に尋ねた。


「な……、何もないわ! いったい、何をしに来たのよ!」


 ヘレンは声を震わせながら言った。


「あなたを、逮捕しに来たのですよ。お母様を殺したのは、ヘレン、あなたですね?」


 私は、彼女の目を見据えながら言った。

 部屋は、沈黙に包まれていた。

 ヘレンは、体を震わせながら、目は宙をさまよっていた。


「わ……、私は……」


 彼女は、何か言葉を探しているようだった。

 言い訳なら、たっぷりと聞いてあげるつもりである。

 こちらには、証拠があるのだから。


 不安な表情を浮かべて体を震わせているヘレンを見据えて、私は彼女の言葉を待った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る