第42話
(※ウィリアム視点)
私は、甘く見ていた。
仕事がまったく見つからない。
私が恥を忍んで頼んでいるのに、店主たちは皆、私を雇おうとはしなかった。
そして、彼らが断るその態度を見て、私はようやく気付いたのだ。
王族から平民なった者は、扱い難いということに……。
そんな者を雇おうというもの好きはいない。
どう接したらいいのかわからないし、今まで仕事なんてしたことがないのに簡単には雇えない、というのが彼らの言い分なのだろう。
確かに私は、仕事なんてしたことがない。
しかし、やればそれなりにできるはずだ。
それなのに、試す機会すらない状態では、どうしようもない。
私はさらに何人もの店主に、雇ってもらえるように頼みこんだ。
しかし、皆首を横に振るだけだった。
この私が恥を忍んで頭を下げて、頼み込んでいるのに……。
こんな屈辱、今まで味わったことがない。
平民として生きていくことを、甘く見ていた。
そのことに、ようやく気付いた。
しかしついに、私を雇ってくれる店が見つかった。
金持ちしか訪れないような、高級料理店だった。
「本当に、雇ってもらえるのですか?」
こんな平民ごときに敬語を使うなんて屈辱だが、今は私も平民になったのだから、そんなことは言っていられない。
それに今は、雇われたという嬉しさの方が勝っていた。
「ああ、実はあんたとは昔、一度会ったことがあるんだ」
私は覚えていなかった。
しかし、きっとその時に、私は彼になにか良いことをしたのだろう。
だから、その時の借りを返すために、私を雇ってくれたに違いない。
「あんたは昔、おれの料理が不味いと言って、その料理をおれの頭に落としたんだ。大勢の客がいる前でな。あんた、今は平民なんだろう? たっぷりとこき使ってやるから、覚悟しておけ。あの時おれに恥をかかせた借りを、返してやる」
私の額からは、汗が流れていた。
どうやら、期待していたのとは違う形で、借りを返されるようだ。
そしてここから、地獄のような日々が始まるのだった……。
*
私はアンドレさんと共に、のんびりとした時間を過ごしていた。
殿下とヘレンが平民になったという記事には驚いたけれど、それは、当然の報いだとも思えた。
まあ、正直なところ、今更殿下とヘレンがどうなろうと、どうでもいいというのが本音だった。
ヘレンに関しては、少し引っかかることがあるけれど何も証拠はないので、単なる私の妄想かもしれない。
そういえば……、お母様が殺された事件の資料を見ている時、私は何か違和感を感じていた。
そのことは、覚えている。
でも、そのあとは殿下が訪ねて来て処刑宣告されたり、脱獄計画を練ったりするのに忙しくて、すっかり頭から離れていた。
あの違和感は、なんだったのかしら……。
お父様が強盗の仕業に見せかけようとしたから、部屋は荒らされていた。
当然、いろいろなものが散らばっていた。
資料にあるそれらの写真を見て、私は何か違和感を感じた。
なんとなく……、写るはずのないものが、そこに写っていた気がする。
ホラー的な意味ではなく……。
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