第28話
「窒息死、ですか……」
私は大きなため息と共に言葉を絞り出した。
長い間、息をしていなかったような気がする。
まさか、死因がショック死ではなく、窒息死だったなんて……。
これはさすがに、予想外だった。
銃で撃たれて出血量も少なく、弾が貫通した場所や入射角などから判断すれば、ショック死だとみるのが妥当だった。
それがまさか、窒息死だったなんて……。
「ということは、お母様はお父様に撃たれる前に、既に亡くなっていたということですね?」
私はアンドレさんに質問した。
「そうですね。だから、銃で撃たれても、出血量が少なかったのです」
「となると、どうして窒息死していたのか、という問題になりますが……」
私はそこで、気持ちを落ち着かせるために、コーヒーを淹れた。
ホットコーヒーを飲んで、ほっとしていると、少しは冷静になっていた。
そこで、絞殺はあり得るのかという考察をした。
まず、絞殺なら何の道具を使ったにしても、必ず痕が残るはずだ。
それは、手で行った場合でも、同様のことが言える。
そして、資料を見たけれど、それらしい痕はなかった。
つまり、絞殺というのはありえない。
そして、何かをのどに詰まらせていた、ということもなかった。
犯人が何かを口に押し込んだということはない。
それは同時に、自然死や事故死ではないことも意味する。
ということは、何かで顔を押さえて息ができないようにした、と考えるのが妥当である。
おそらく、枕でも使ったのだろう。
そして問題は、誰がそんなことをしたのか、ということだ。
「窒息させたのはお父様……、というのは、可能性としてはありますが、少し矛盾しますね」
「ええ、そうですね。ローリンズ氏が自身の立場を守るために、今回の犯行に及んだとしたら、少し変です」
「ですよね。窒息させて、さらに銃で撃つなんて、普通はそんなことはしません。いずれかの方法で殺したあと、脈をとれば死んだかどうかは確認できますからね。もしそんな行動をするとしたら、恨みを晴らすためという可能性しかありません。でも、お父様はお母様に恨みなんてない。あくまでも、自身の立場を守るために、しかたなくやったのですから……」
「そう考えると、窒息させた犯人は、別にいることになりますね。いったい、誰なんでしょうか……。まさか、被害者が二度も殺されているなんて、思いもしませんでした」
確かに、アンドレさんの言う通りだ。
しかし、状況はお母様が二度殺されたことを指し示している。
二度目に殺したのは、お父様で間違いない。
それなら、一度目に殺したのは……。
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