第12話
私の快適幽閉生活は、相変わらず続いていた。
ヘレンや両親に会わなくても済むし、綺麗な部屋で過ごせて、食べる物に困ることもないし、大好きな本も読める。
しかし、一つだけ問題があることに気付いた。
声の出し方を忘れた。
なんていえば大袈裟だけれど、しばらく誰とも話していないので、たまには声を出した方がいいかな、と思った。
そこで私は、本を読む際に朗読することにした。
べつに、全部というわけではない。
たまに、しばらく声を出していないなと思った時に、十分くらい声を出しながら本を読むだけだ。
少し恥ずかしいけれど、部屋には私しかいないのだから、何も問題はない。
そして現在も、私は朗読の最中だった。
静かな部屋で、私の声だけが聞こえていた。
しかし、突然私以外の声が聞こえたのだった。
「あの、ヘレン様、よろしいでしょうか?」
私はその声に驚き、振り返った。
そこにいたのは、一人の兵だった。
彼はいつの間に、部屋に入ってきたのだろう。
ノックもせずに失礼ね。
彼にそう言うと……。
「いえ、ここはあなたの部屋ではなく、一応牢獄なので、ノックの必要はありません」
と言うのが彼の返答だった。
そうでした……。
普通に快適な生活を送っているせいで、うっかり忘れそうになるけれど、今の私は囚われの身だった。
「ちなみに、ノックはしましたよ。本を読むのに夢中で、気付いていなかったみたいですけれど」
彼はそう付け加えた。
まあ、確かに私って、本を読んでいる時はその世界にどっぷりと入っているから、周りから話しかけられても気付かないなんてことは、よくあるのだ。
彼が部屋に入ってきたことに気付かなかったのも、無理もないことだ。
しかし、私はそこであることに気付いた。
これは、緊急事態だ。
本を朗読しているところを、彼に見られた!
恥ずかしい……。
穴があったら入りたい。
部屋の中央で、大きな声でハキハキと本を朗読しているところを、見られてしまったのだ。
どうして私がこんな仕打ちを受けないといけないの?
神様、これって、さすがに酷すぎるんじゃありませんか?
なんという屈辱……。
まさか侯爵令嬢である私の人生に、牢獄で辱めを受けるという歴史が刻まれるなんて……。
「それで、何か御用ですか? 私に用件があるから、ここへ来たのですよね?」
私はすました表情で、兵に質問した。
こうなったら、何も見られなかったことにしよう。
恥ずかしがっていたら、余計にいたたまれない思いをすることになってしまう。
何事もなかったかのように振る舞うことで、精神的ダメージを最小限に抑えるのが、この場における最善の判断だ。
「あの、貴女に聞きたいことがあります」
兵は真剣な表情だった。
よかった……、朗読の件については、触れないみたいだ。
もしその話を持ち出されたら、どうしようかと思っていた。
その場合は、口止め料を払うくらいしか、私に残された選択肢はなかった。
まあ、獄中にいる今の私は、お金なんて持っていないのだけれど……。
「聞きたいことですか……。どうぞ、なんでも答えますよ」
私は気を取り直して言った。
彼はなんだか、思い悩んでいる様子である。
数秒の沈黙の後、彼は口を開いた。
そして、彼の口から出たのは、意外な言葉だった。
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