第9話
(※兵視点)
あの時一瞬見た表情を、私は忘れることができなかった。
王宮に仕える兵として何年も勤めてきた私は、それなりに悪人も見てきた。
そして、先ほど二人が見せた表情は、隠し事をしている悪人が自分のミスに気付いた時に見せる際の表情に似ていた。
しかし、そんなことが、ありえるのか?
もしかしたら、私の見間違いかもしれない。
単なる私の思い込みという可能性だって、充分にある。
今日のことを、私はウィリアム様に報告するべきか?
ヘレン様を捕えた時は、殿下に報告した。
彼女のご両親から、あらかじめその可能性を示唆されていたので、私たちもあわてずに対応できた。
しかし、ヘレン様を捕えたことを殿下に報告した際に、私は彼女の言っていることも、可能性の一つとして疑うべきではないかと進言した。
少なくとも、少しは調べるべきなのではないかと提案した。
しかし殿下は、そんなバカなことがあるはずがないだろうと怒り、私の提案は一蹴された。
そんなことを調べるのは相手に対する失礼になるし、自分の婚約者のことを疑われるなんて不快だ、と怒りをあらわにしていた。
「それなのに、あの二人が怪しいです、なんて言えないよなぁ……」
私は大きくため息をつきながら呟いた。
そんなことを殿下に報告すれば、きっと私はまた怒られてしまうだろう。
下手をすれば、首が飛ぶかもしれない。
物理的に首が飛ぶことはさすがにないと思うが、職を失う可能性はないとは言い切れない。
どんな些細なことでも、兵として報告するべきなのだろうが、自分の首と天秤にかけるほどのことなのか?
単なる私の勘違いという可能性だってあるのに、そこまでのリスクを背負ってまで報告すべきなのか?
というか、自分の首を天秤にかけるって、怖いな……。
物理的な方の想像をしてしまった……。
考えが段々と逸れているぞ……。
最初の疑問に戻ろう。
ヘレン様の両親が怪しいと、私は殿下に報告するべきか?
私はしばらく考えた。
そして、私の考えだした結論は……。
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