第8話
私は、意図せず始まった幽閉生活を楽しんでいた。
はっきりいって、家にいるより快適である。
ここなら、毎日のように聞かされていた妹の自慢話も聞かなくて済むし、妹の味方ばかりして私を不当に扱う両親と顔を合わす必要もない。
理想郷は、こんなところにあったのね……。
外出できないというのは、ほんの少し不満だけれど、もともと私は、ほとんど外出しない生活を送っていた。
だいたい自分の部屋で、本を読むのが一日の大半だった。
特に私は、フィクションの物語を読むのが好きだ。
本を読んでいる間は、現実のことを忘れることができる。
私のものを奪って悦に浸る妹のことも、彼女の味方をする両親のことも、本を読んでいる間は忘れることができる。
そして、この部屋には大きな本棚があるので、ずっと本を読むことができる。
暇を持て余すこともないし、妹たちから嫌な思いをさせられることもない。
生活に必要なものは揃っているし、欲しいものがあれば、頼んだら大抵の物は支給してくれる。
ここに入って一日目の時点で、私は脱獄計画を三通り考えたけれど、その必要がないことがすぐにわかった。
ここでは邪魔も入らないので、フィクションの世界に没頭できる。
それに、時々現実のことを思い出しても、私は笑顔を浮かべていた。
妹のヘレンが両親の協力を得て、私に成りすまして殿下と婚約した。
彼女は殿下と王宮で暮らしているけれど、その生活が長く続かないことに気付いた私は、いつその時が来るのか、楽しみに待っていた。
お父様、お母様、そして、ヘレン……。
あなたたちに罰が下されるその日が来るまで、私は快適なプリズンライフを満喫していますね……。
*
(※ヘレン視点)
「パリッとした感じのやつ? いったい、何を言っているんだ? 本当に、私と初めて会った時のことを覚えているのか?」
殿下の表情は、さらに険しくなった。
曖昧なことを言う私の誤魔化し方は、どうやらまずかったようだ。
適当に話を合わせつつヒントを得ようと思ったけれど、それは得策ではないと判断すべきだ。
こうなったら、何とかして昔のことを思い出すしかない。
私は殿下が何を食べていたのか、見ていたはずだ。
というか、見ていないと、困る。
そうでなければ、私は正解を導くことができず、お姉さまに成りすました偽物だとバレてしまう。
なんとかして正解を導く以外に、私に残された選択肢はない。
そうだわ……。
殿下は立食パーティと言っていた。
それなら、食べる物も限られる。
ナイフやフォークで食べるようなものは、立食パーティには向かない。
それでも範囲が絞れたとは言えないけれど、何もヒントがないよりはかなりマシになった。
そして、殿下と初めて会ったのは、子供の時だ。
子供向けの料理がその時あったのかは不明だけれど、大人になって食べられるようになったものは、除外される。
渋いものや苦いものではないと考えて間違いない。
たぶん、大丈夫なはず。
だって、子供が苦いものや渋いものを、好んで食べるとは思えないし……。
この考え方が正しいのか、段々不安になってきたけれど、考える時間は限られている。
食べ物の範囲を絞りつつ、思いついた料理をピックアップし、それを子供の頃本当に食べていたのか、記憶と照らし合わせる。
そのような思考を何度も繰り返し、私は、子供の頃の記憶を思い出した。
たぶん、これだわ!
殿下が何を食べていたのか、おそらく分かった。
でも、本当に合っているかしら?
私の思い込みという可能性もある。
間違っていれば、私の人生は終わりなのだ。
私は不安な気持ちでいっぱいだったが、殿下が何を食べていたのか、声を震わせながら答えた。
そして、その結果は……。
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