兄の罪と弟の罰

大久保伊織

一瞬の不注意と永遠の苦悩

10歳の頃、私は自分が後ろをついてくる6歳の弟に気づかず、横断歩道を使わずに道路を横断してしまった。その結果、弟は事故に遭い、私は深い責任感に苛まれた。私はその時から、一生涯、弟の世話をすることを誓った。


しかし、この誓いは簡単に実現するものではなかった。私たちの家は貧しく、私は苦労しながら高校に通い、アルバイトをしながら生計を立てていた。一方、弟は障害を持っており、常に世話が必要だった。私は夜遅くまで働き、朝早くから弟の世話をし、学校に通うために必死に努力した。


私の努力は報われ、弟は私の愛情とケアによって成長し、人生を謳歌しているように思われた。私は自分自身に誓ったことを守り、弟のために全力を尽くしたことを誇りに思っていた。


弟が大学を卒業した時点で、私の義務の半分は果たせたと信じていた。しかしそれは間違いだった。弟のために懸命に働く私の様子を見守っていた会社の社長が、私を見込んで娘婿にならないかと申し出を受けたのだが、その時から弟の態度が変わってきたのである。


「あの女と僕とどっちが大事なんだよ!」と、私の婚約者に嫉妬する弟の言葉は、私の胸を刺すようだった。以前のような親密さはなくなり、しまいには、弟は私をあたかも監視するように、暇さえあれば、デートにさえつきまとうようになってしまった。


私に対する執着心があらわになってきたのだ。私は弟を大事にし過ぎたのではないかと、過去を振り返ってみた。そして私が弟を守るために、自分自身の幸せを犠牲にしていたことに気づいた。


今、私は自分自身を取り戻すために、弟と向き合っていく決意をした。弟にどう思われようが、私は自分を大切にし、自分の幸せを優先しよう、と。それがこれからの私にとって、最も大切なことだ、と腹をくくった。


お見合い、婚約、そして結婚式と、順風満帆に展開した。何よりも、社長令嬢が私に好意を寄せてくれていることが、私にとって至福だった。


ところが、私たちの結婚式の日に、思いもよらぬ事件が起こったのである。弟の行為に私はもちろんのこと、社長も社長令嬢も、かなりショックを受けたに違いなかった。


結婚式当日、弟は義足の方のズボンの裾をめくり、声を張り上げてこう言い出したのだ。


「僕は子供の頃、兄の不注意によって交通事故に遭い、片足を失いました!責任を感じた兄は、生涯僕を守ると誓ってくれたんです。それなのに今、結婚を機に僕を見放そうとしています。無責任だと思いませんか!?」


式場が一瞬にして凍りつき、やがて騒然となった。いたたまれなくなった私は、社長に深く頭を下げながら、こういった。


「大変申し訳ございませんが、この話はなかったことにしてください」


謝罪の言葉を口にしながら、弟を引き連れて退席しようとした。しかしながら、社長は私たちを引き留め、弟に対して説得を試みた。


緊張感に満ちた雰囲気の中、式場の皆全員が、社長の言葉に耳を傾けていた。社長の説得は的を射ており、誰もが感動した。


頑なだった弟の心も和らぎ、納得せざるをえなくなったようだった。そして私たち兄弟も、お互いに和解の意志を交わすことができたのである。


このような雰囲気の中で、社長が私たちに向かって、さらに温かい激励の言葉を掛けてくれた。その言葉が私たちに伝えられた瞬間、過ちを認め、お互いを許し合うことができた。それは、私たちにとって大きな救いであり、新たな始まりを意味する瞬間だった。


そして、結婚式は無事に終わり、社長令嬢と私は豪華客船に乗り込み、世界一周の旅へと出発した。そこでは、美しい景色とともに、多くの人々と出会い、新しい文化や習慣を学んだ。


この旅で私たち夫婦は、互いに深く理解し合うことができ、愛を深めることができた。この旅が私たちの人生にとって、最も素晴らしい思い出になることを予感しながら…

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